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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2017.02.20

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第44回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

(4)悪徳ブローカーに気をつけよう(その4)

桂林の風景

③悪徳ブローカーの事例(その2)

今回も悪徳ブローカーの特色である「悪徳ブローカーが接近してくる行動パターンは、直接コンタクトしてくることは稀で、必ず日本企業の経営者や役員と親しい人物を介して近づいてくる」事例をご紹介します。

関東の某地方都市では有名な大型医療法人に出入りしているコンサルタント会社から「医療法人理事長が霞が関出身の某有力国会議員から紹介された中国進出案件について悩んでいる」との相談を受けました。案件の内容は「今は引退した元中国国家要人A氏の親せきと称する中国人B女史(A氏とB女史は同姓)から、A氏の長寿と健康維持のため、最新の医療技術を持つ日本人医師と医療設備を備えた近代的病院をA氏の故郷に近い沿海地区の大都市C市に建設運営してほしい」というものです。当時、大型病院経営は外資に開放されていませんでしたが、B女史はA氏の親戚なので問題ないと言っているということでした。

この話を聞いて即座に「この話はでたらめだ」と直感しました。
第一に、B女史がA氏の“兄の娘”とか“弟の娘”とか特定できればB女史の氏素性を調べるとができますが、“A氏の親せき”では調べようがありません。国家要人になるとその“自称親せき”は500人やそれ以上に膨らむのが中国です。中国では張や趙、王、李、江などの同姓が多くて、親戚の根拠にはなりません。

中国共産党が政権を樹立した後も中国に残り、紡績資本家として有していた私有財産を国家に提供し、中華人民共和国建設に大きく貢献した“中国の赤い資本家”栄毅仁中国国際信託投資公司(CITIC)董事長は、1980年代後半、改革・開放路線を歩む新生中国の様子を一族に見せるため、世界中から親戚を招待し一カ月に亘り中国全土をくまなく案内・視察した時、集まった人数は500名超と報道されました。

第二に、中国の国家要人の健康情報はトップシークレットです。今なお大きな政治的影響力を誇示するA氏ならなおさらです。日本人医師に聴診器を当ててもらう、血液検査をしてもらう、MRIの精密検査を受ける、内視鏡検査を受診するなどあり得ません。鄧小平氏はアメリカCIAの情報で「前立腺がんで余命短い」と何度か報道されても、その後10数年以上にわたり改革・開放政策をけん引したのはご承知の通りです。それほど国家指導者の健康情報は最高の国家機密の一つです。

第三に、20~30年前ならいざ知らず、今やGDP世界第2位、貿易額、外貨準備高第1位の経済大国になった中国が、国家要人が利用する病院を、日本に頭を下げてお願いするなど考えられません。A氏が「最新の医療検査設備や医療器械を準備してほしい」と言えば、中国が即刻世界最先端のそれらを用意することはいとも簡単な事です。

以上の理由でB女史の話は取り合わないほうが良い、多額の“工作費”を要求されたうえになかなか前に進まない(工作費もかさむ)可能性が高いとアドバイスしました。現在は大型病院の建設・運営も外資に開放されたものの、もろもろの条件が未整備で実現例は極めて少ないのが実情です。もちろん本件プロジェクトも日本側は動かず頓挫したも同然ですが、B女史は当該医療法人にしつこく出入りしていて、医療法人としても大物政治家の紹介だけに毅然と断るわけにもいかないということのようです。とにかくしつこいのも悪徳ブローカーの特色に一つです。また現役を引退したこの日本の大物政治家も、他の案件でも顔を出して物議をかもしている話を耳にします。

次も間接アプローチの事例です。
上海万博もその年の秋に迫った春頃、以前中国進出の勉強会を行った関西の製薬会社A社の経理部長から「盛んに社長との面談を要求してくる中国人がいるがどう思うか、以前勉強会で聞いた悪徳ブローカーの部類ではないだろうか」という電話がありました。まず名前を聞いたところ、張某という東京で有力私立学校の理事長に中国での有力国立大学との合弁学校設立や南方の海岸都市でのマリンスポーツクラブ立ち上げを持ち掛け、いい加減な話で頓挫したプロジェクトのブローカーでした(日本側は途中で悪徳ブローカーと判断して実害は免れました)。
小生はA社経理部長に東京での案件のポイントを話し、「要注意人物です、社長面談や会社出入りを断るべきです」と伝えました。経理部長は「よくわかりました、出入りさせないよう対応します」と言われ、ことなきを得ました。逆に小生から経理部長に「張某は誰からの紹介で、どんな肩書か」と聞いたところ、「弊社の女子社員のご主人の学友の知人からの紹介で『上海万博事務局連絡員』を名乗っていると聞いている」ということでした。

きわめて関係が薄い自社社員の知人からの紹介で、調べるのも面倒です。しかし念のため小生が勤める銀行の上海本部の上海万博事務局に出入りしている部下に、張某のことを確認させたところ、事務局幹部が言うには「大勢の人間が出入りしているので張某の名前は知らない、しかし『事務局連絡員』という呼称、肩書は無い」ということでした。この結果を経理部長にも報告して納得していただきました。おそらく張某は、テレビコマーシャルでも有名なA社に上海万博への出店か広告協賛などを持ちかけようとしていたことは容易に想像できますし、立ち上げ段階での“工作費”の詐取あたりが目的だったのかも知れません。

なおこの張某はつい最近も日本の中堅企業に、上海浦東新区で注目されている「上海自由貿易試験区」での中国の過剰生産品を扱う貿易会社設立を持ち掛け、当該中堅企業の取引金融機関から、張某を知っているかとの問い合わせがありました。これまでのいくつかの張某にまつわる事例のポイントを説明して「相手にしないほうが良いのではないか」と申し上げたばかりです。張某の強力な生命力には脱帽です。
(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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