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2017.07.03
藤崎 照夫
先月のコラムで空港、巨大ショッピングモールなど大きな変化を見せるインドについて触れましたが今月もその続編として幾つかの切り口で皆さんにインドの現状についてご説明したいと思います。
1)加速するモータリゼーション
インドの大都市を訪問された方は朝夕の道路の混雑ぶりに驚かれたことと思います。インドでは政府が1980年代の初めに第一次自由化を実施するまでは自国生産の本当に旧い型の自動車が路上を走っていました。これに大きな変化をもたらしたのがスズキ自動車でした。スズキはインド政府との対等合弁からスタートしましたが立ち上がり時の生産計画は年間12万台でこれでも当時世間の人達は「無謀な計画だ」と言っていたそうです。
然しながらインド経済の伸びに合わせた中流階級のユーザーを開拓し燃費の良い小型車を武器にスズキは徐々にシェア―を伸ばし現在は乗用車の50%近くを占め数年以内に年間200万台生産を狙うまでの大企業に成長しインドに進出した日系企業の一番の成功例と言われています。ここでご参考までにインドの乗用車市場の世界における位置付けを下記しますと昨年2016年の実績ベースでは
1.中国 2,800万台
2.米国 1,780万台
3.日本 500万台
4.ドイツ 370万台
5.インド 366万台
となり世界のトップ5入りをしているわけですがインドの乗用車は今後も年間10%前後伸びて行くと予想されており数年後には日本を抜いて世界でも第3位の地位を占めるのは間違いないと言われています。従って世界中の自動車メーカーがインドに注目をしておりごく最近も韓国の大手自動車メーカーの起亜自動車が2,000億円を超える大型投資でインド進出を発表しています。二輪車市場について少し触れますと昨年実績で1,760万台の販売で5年連続でインドは世界最大の二輪車市場となっています。
上記のようなモータリゼーションはインドの工業化への貢献、雇用の拡大輸出による外貨の獲得など色々なプラス面ももたらしているわけですがそれと並行して幾つかのマイナス面も生じています。その中でも一番大きな問題点は排気ガス問題といえます。政府もこの問題には強い危機感を持っており欧州の規制を先取りする形での規制導入や2030年には生産される車の半分以上を電気自動車にしたいなどの挑戦的な政策導入の検討を始めています。
日本ではよく中国のPM2.5問題が報道されていますがインドの大都市であるデリーやムンバイ等の大気汚染は中国を上回るスピードで進んでおり児童の呼吸器系疾患の急増などが報道されています。またインドでは車検制度が確立されておらず古い車が未だ路上を走っています。これについては最近対策が打ち出されつつあります。これ以外にも急増する車の数だけでなく運転マナーのひどさもあり交通事故による死者は年間10万人近くになると報告されています。以前はインドでは大都市でもゆっくり路上を歩く牛の姿があちこちで見られましたが最近は車社会になるとともに路上での牛を見かけることが殆どなくなってきました。聖なる生き物として崇められる牛にとっても住みにくい世界になりつつあるようです。
2)巨大なスマホ市場
上記1)で長々とインドの自動車市場について述べてきましたがもう一つ
インドのスマホ市場について触れてみたいと思います。私はインドに2回駐在しましたが携帯電話が使用出来るようになったのは2度目の駐在を開始した1990年代半ば過ぎでした。当時は携帯電話本体そのものの値段も高く社内でも幹部社員のみが携帯を保有することが出来私の記憶 では1,000名の社員の内僅か50名位でした。然しながら昨年2016年のインドでのスマホの生産は何と1億台を超えるまでに成長しました。
その生産台数だけでなく大きな特徴は以下に挙げるメーカー別シェア―に
現われていると思います。
1.サムスン電子(韓国) 24.8%
2.シャオミ (中国) 8.9%
3.レノボ (中国) 8.8%
4.オッポ (中国) 7.1%
5.ビーホ (中国) 6.6%
欧米や日本メーカーの名前が一つも出て来ませんね。
今月は自動車と携帯電話を通じてインドの一端をお伝えしました。
藤崎 照夫
Teruo Fujisaki
早稲田大学商学部卒。1972年、本田技研工業(株)入社後、海外新興国事業に長年従事。インドでは、二輪最大手「Hero Honda」社長、四輪車製造販売合弁会社「Honda Siel Cars India」初代社長として現地法人トップを通算10年務める。その後、台湾の四輪製造販売会社「Honda Taiwan」の初代社長、会長を務めた後2006年同社退職。現在はサンアンドサンズ社、ネクスト・マーケット・リサーチ社等の顧問として活躍インド、アジア事情に幅広く精通している。