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COLUMN コラム

悠久の国インドへの挑戦

2018.04.09

「悠久の国インドへの挑戦」57 インド基礎知識そのXIV:私の出会ったインドの人達(6)

藤崎 照夫

ケーララ州の風景

 2輪合弁会社(Hero Honda)の工場長 Mr.A.C このシリーズでこれまで私が一緒に仕事をしたパートナーをご紹介して来ましたが、私の意図はこれらの色々なインド人について触れることで読者の皆さんにインドやインド人に対する理解を深めて頂きたいと思っていることを今回改めて冒頭に述べさせて頂きたいと思います。
 
 今回ご紹介するMr.A.C.はフルネームだと大変長くなるのでイニシャルで書かせて頂くことをご了承下さい。彼はこのコラムで以前取り上げましたインドでの最高学府であるIIT(インド工科大学)を卒業しており現地合弁会社の最高幹部でした。会社の立ち上がり時期には営業部長を務めていましたがメーカーとして工場マネージメントが非常に重要ということで私が赴任した時には工場長としてその任についていました。

 彼は日本的な言い方をすればいわゆる「3高」の人で、出自は最高カーストの出身でまた典型的なアーリア人の特徴である色白で背も高くそして最高学府の出身ということで会社の中でも最もエリートでした。彼の奥さんも彼と同じIITの出身で美人で背が高くいわゆる美男、美女の夫婦でした。本人から直接聞いた事ではありませんが彼等夫婦は異なる宗教を信じていたので結婚に至るまでは家族、親族からの反対もあり大変な苦労をしたそうです。

 彼は仕事に対する理解度が非常に高くまた部下の掌握力も優れていたのでパートナーからも厚い信頼を受けていました。彼とは工場で開かれる生産関連の会議で何度も一緒になりましたが彼に私が特に感心したことが二つありました。先ず一つ目はかなり込み入った案件でもその問題を簡潔に整理して何がポイントかをまとめる力でした。二つ目は多くの人の前で話をする際に原稿を見ないで起承転結のまとまった話が出来る事でした。私は赴任して間もないころは沢山の人の前で話をするのがどちらかといえば苦手で一度彼に率直に「どうしたらそんなに話を旨くまとめることが出来るのか秘訣を教えて欲しい」と聞いたことがあります。

 その時の彼の回答は次のような内容でした。
 「スピーチをする相手が誰かをまず念頭に置いた上でどんな話をしたらよいかを考える。そして起承転結夫々のキーワードを捜し、その言葉だけを小さなメモ用紙に書いて話を進めていくようにしています」
 それを聞いた後で私もスピーチをする時はストーリーは一応考えるもののキーワードをメモにしてそれを軸にして話をするようにしたら徐々にですがスピーチに対する苦手意識が少なくなってきました。それはその後の私の仕事の上で大変役に立ったので今でも彼には感謝をしています。

 彼は上記のようにエリートで頭脳明晰な人物でしたが酒もたしなむしユーモアのセンスもあり彼との会話は楽しい思い出として残っています。彼は私が赴任してすぐに起きた工場のストライキの時には縦横無尽の活躍で組合側との交渉に当たり解決後は新規組合役員との賃金交渉もまとめ上げてその功績は大でした。

 彼には二人のかわいい男の子がいて将来はきっと両親の血を引いて優秀な大人になるだろうと想像していましたが私がHero Hondaを離れて数年後に長男が交通事故で亡くなり彼等夫婦は悲痛にくれたという話を他の人から聞き「全てがパーフェクトという人生はないんだな」と同情を禁じ得ませんでしたが今日はインド人の中でも素晴らしく優秀な人がいるという事例として取り上げさせて頂きました。

藤崎 照夫

Teruo Fujisaki

PROFILE

早稲田大学商学部卒。1972年、本田技研工業(株)入社後、海外新興国事業に長年従事。インドでは、二輪最大手「Hero Honda」社長、四輪車製造販売合弁会社「Honda Siel Cars India」初代社長として現地法人トップを通算10年務める。その後、台湾の四輪製造販売会社「Honda Taiwan」の初代社長、会長を務めた後2006年同社退職。現在はサンアンドサンズ社、ネクスト・マーケット・リサーチ社等の顧問として活躍インド、アジア事情に幅広く精通している。

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