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COLUMN コラム

悠久の国インドへの挑戦

2019.11.25

「悠久の国インドへの挑戦」77 インド基礎知識そのXXXII :インド人との付き合い方(2)

藤崎 照夫

タージ・マハル

 先月に引き続きインド人との付き合い方について話を進めて行きたいと思います。
 インドに関する数多くのセミナーや講演会などにこれまで参加して来ましたが、その席でインドのビジネスマンの多くが口にするのが「日本人の意思決定の遅さ」です。
 例えばインドへの進出の検討が行われる場合、日本では一般的には主任/課長→部長→役員→トップの経営者と報告がされて慎重な議論が何度も行われます。

 私がかって勤務したホンダが1980年代初頭にインド進出の検討を開始した時には私自身は担当してはいませんでしたが、チームによる1年半以上の事前調査が実行され最終的なトップ判断に至ったと聞いています。所謂ボトムアップ方式ですが日本の企業の場合はオーナー経営者や一部のワンマン経営者を除くとかなりの会社がこのスタイルを取ってきたのではないかと思料します。

 勿論このスタイルには利点もあり検討の過程で色々な観点、視点から検討されるので、大きなミスを犯すリスクは少ないと考えられます。然しながら時代が大きく変革を遂げている時にはこのやり方だと国内外で競争に大きく立ち遅れて商機を逃してしまうということが起きてしまいます。1980年代に「Japan as No.1」と言われた日本の成長を支えた製造業が世界の競争で立ち遅れてしまったのは残念ながら事実として認めざるを得ないのでないでしょうか。

 インドの場合はこの日本式のボトムアップとは対照的なやり方のトップダウン方式がその多数を占めます。その理由の一つは最近このコラムで書いた大手財閥を含め多くの会社が所謂ファミリー経営であることに起因します。従ってインドの場合重要な会議などにはオーナー自身が参席しその場で意思決定をします。私自身も昔課長時代にインドの大手の会社のトップに会った時に私の名刺を見て「課長か」と言われた経験があります。

 勿論日本とインドとのビジネス交渉が課長レベル、部長レベル、役員レベルと夫々のレベルで行われることは多々ありますが、多くのインド人が苦言を呈するのは「日本人はその場で結論を出してくれない」ということです。日本人の多くが「一度会社に持ち帰って」とか「上司と相談の上」と回答するのを見てインド人の多くは何故決定権のない人間が交渉に来たのかと不満を持つのです。


 私のインド駐在時代にも当時進出を始めた韓国企業に比べて日本の会社は物事がなかなか決まらないと言われているのを聞いた記憶があります。日本の企業も最近は製造業は100%資本進出が認められているので100%日本資本での進出も増えてきていますが未だ合弁形式や技術提携による進出も数多く見られます。そのようなケースの場合には当然のことながらインド人とのトップ交渉が必要になります。

 従ってその交渉をスムーズに行うための方法の一つは日本側から決定権を持った人が交渉に当たるかそれが難しい場合には代理で出席する人にきちんと決定権を与えておくことではないかと思います。インド人の中には所謂「ダメ元」で色んな要求をしてくるケースも多々ありますのでその一つ一つに過敏に反応することなく自分の主張することはきちんと意見を述べ中途半端な結論を出さないようにすることが肝要かと思います。

 私は現役時代に「日印経済委員会」という会合に日本とインド両方で出席した経験があります。この委員会は日印夫々の会員メンバーの大手の会社のトップが参加し日本とインドで交互に開催する会議です。それはインドで開催された会議での出来事でした。
 日印夫々の議長が開会宣言と挨拶をした後インド側の大臣がスピーチをして退席をし昼食会の後の風景でした。日本側の参加者は全員着席しているのにインド側は櫛の葉が抜けるようにかなりの空席が見られました。

 会議はその後スケジュール通り進められましたが、会議後日本側の出席者からは「あのインド側の態度は無礼で国際ビジネスマンの取る態度ではない云々」と多くの非難の声が上がりました。私もその時は他の方と同じような感想でしたが、会議後インド側の大物経営者が「日本人はインドに対して電気、水道、道路などのインフラがインド側はなっていない、政府認可が遅いなどなどいつも同じようなクレームを述べるので聞き飽きた。他の外国との会議はもっと建設的だ。日本だけがハンディキャップを負っているのではない」という意見を述べているのを後で聞きました。

 その時私が思ったのは「確かにインドに進出するのは日本企業だけではない。他の国の企業も同じ条件下でこの国への進出を決めたのでそれは素直に認めなければならない。インド人の意見も一理がある」ということでした。
 少し長くなりましたので今月はこれで終わります。

 

藤崎 照夫

Teruo Fujisaki

PROFILE

早稲田大学商学部卒。1972年、本田技研工業(株)入社後、海外新興国事業に長年従事。インドでは、二輪最大手「Hero Honda」社長、四輪車製造販売合弁会社「Honda Siel Cars India」初代社長として現地法人トップを通算10年務める。その後、台湾の四輪製造販売会社「Honda Taiwan」の初代社長、会長を務めた後2006年同社退職。現在はサンアンドサンズ社、ネクスト・マーケット・リサーチ社等の顧問として活躍インド、アジア事情に幅広く精通している。

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