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2017.09.04
原島 一男
“It's about that moment that is forever gone.
「そのことといえば、過ぎてしまったあの瞬間のことなの」
(ビフォア・サンセット)
映画の中で話されている、上品で丁寧なフレーズをそのまま紹介する連載。
忘れられない人に再会したとしたら、あなたはどうします?その答がこのフレーズで求められるかもしれません。
フランスの女子大生だったセリーヌ(ジュリー・デルピー)が、ヨーロッパを旅行中のアメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)と列車内で出逢ったのは9年も前のこと。二人は一夜を共にしますが、連絡先を教え合わずに別れてしまいます。
ニューヨークで作家になったジェシーは、今、12日間で10カ国をまわる新作のプロモーション・ツアーでパリを訪れ、セリーヌと再会します。
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CELINE: ... And there's been so much water under 「あのときから、いろいろなことがあり、
the bridge... it's not about you anymore, 時間も経ったけど、あれはあなたのことではなく、
it's about that moment that is forever gone. 過ぎてしまったあの瞬間のことなのね」
JESSE: You say all that, but you didn't 「そんなことを言っているけど、
even remember having sex. セックスのことは忘れたというわけ」
CELINE: Of course I remembered. 「もちろん、覚えてる」
-「ビフォア・サンセット」(Before Sunset 2004 監督:リチャード・リンクレイタ?
脚本:リチャード・リンクレイタ?/ジュリー・デルピー/イーサン・ホーク)
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人生とは本当に不可思議なものです。もう二度と会えないだろうと信じていたのに、予想外の成り行きのなかで二人の心が乱されています。
1時間半後に出発する飛行機に乗らなければ、と焦るジェシー。
夕暮れせまるパリの街を歩きながら、会う努力をしなかっことへの激しい後悔の念にかられながら、二人は心のうちを打ち明け合います。
・water under the bridge =久しぶりに出会った人と昔のことを話すときの表現。
「川はいろいろなものを運んで行く/過ぎてしまったことだ」という意味の常とう句。
橋の下の水が流れ去って行くように、いろいろなことがあった。もうあのときには戻れない、という意味。
・it's about + 名詞 = ~に関してのこと
It's not about you. = 「あなたのことではない」
It's about that moment. = 「あの瞬間のことだ」
ここで感じられるのは、男性と女性の感じ方の違い。セリーヌの言葉とは、「あなたのことはともかく、もう取り戻せないあの瞬間を大切にしたい」、なのですね。
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原島 一男
Kazuo Harashima
一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。