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2019.08.05
原島 一男
“Dad, this is my friend Melanie.
My father. And my mother. Mom, this is Melanie.”
「お父さん、友達のメラニーです。
父親です。それから母親、こららがメラニー」
(ジョン・アップダイク著「金持ちになったウサギ」)
小説や映画などの名作から選んだ美しい英語を紹介する連載。
そのフレーズが生まれた時代や背景を色濃く伝え、使った人の気持ちを具体的に表します。
それをじっくり観察することで、あなたの今の英語を鍛えあげましょう。
言うまでもなく、一つのフレーズだけでは、その作品の全貌をつかむことはできません。
しかし、それが、あなたを刺激することもあるかもしれません。
偉大といわれたアメリカ車の時代が終わり、日本車が取って代わった1980年始め、当時のアメリカ文学を代表する作家の一人、ジョン・アップダイクの「金持ちになったウサギ」は、いわゆる「ウサギ・シリーズ」(ピューリッツァー賞を受賞)の第二作として脚光を浴びました。
ここでも時代の流れに添えない親子世代の断絶がみられます。その一場面。
“Dad, this is my friend Melanie. 「お父さん、友達のメラニーです。
My father. And my mother. Mom, this is Melanie.” 父親です。それから母親、こららがメラニー」
“Pleased to meet you both,” the girl says, 「どうぞ、よろしくお願いします」と
keeping the merry red smile 彼女は明るい微笑みを浮かべて挨拶を返す。
as if even these plain words are prelude しかし、これは簡単な表現ながら、
to a joke, to a little circus act. 一つの冗談やサーカス曲芸の前触れのようだ
―ジョン・アップダイク著「金持ちになったウサギ」(RABBIT IS RICH by John Updike)
ここで、初対面の会話をいくつかの映画場面からの表現を拾ってみましょう。
「アメリカン・ビューティー」では、高校生のジェーン(ソーラ・バーチ)がクラスメートのアンジェラ(ミーナ・スバーリ)を、両親のレスター(ケビン・スペイシー)とキャロリン(アネット・ベニング)に紹介します。
JANE: This is my friend, Angela Hayes. 「お友だちのアンジェラ・ヘイズです」
LESTER: Good to meet you. 「よろしく」
CAROLYN: Nice to meet you, Angela. 「アンジェラ、よろしくね」
―「アメリカン・ビューティー」 (American Beauty 1999年 監督:サム・メンデス
脚本:アラン・ボール)
ジェーンは ‘This is my friend, Angela Hayes.’ と紹介する人の名前をフルネームで言っています。
これは人を紹介するときの改まった表現です。
これに対して、両親は ‘Good to meet you.’ とか ‘Nice to meet you, Angela.’ と丁寧に返しています。
続いて、1930年代に一世を風靡したジャズ・アレンジャーを描いた「グレンミラー物語」から。
若きグレン・ミラーを演じるジェームス・スチュワートが恋人のヘレン(ジューン・アリスン)を両親に紹介します。
GLENN: Ah, Mother, this is... 「お母さん、こちらは、、」
MOTHER:You don't need to tell me. 「言う必要ないわよ。
You are Helen, aren't you? ヘレンでしょう?
We've been hearing about you for years. 長い間、あなたのこと聞いていましたわ」
HELEN: Yes... I’m very happy to meet you. 「そうですか?お目にかかれてとても嬉しいです」
FATHER: You're Helen, aren't you? 「ヘレンさんでしょう?
Welcome to the family. われわれ家族のところへようこそ」
HELEN: Thank you. 「ありがとうございます」
-「グレンミラー物語」(The Glenn Miller Story 1953年 監督:アンソニー・マン 脚本:ヴァレンタイン・デイビス)
・We've been hearing about you for years. = 長い間、あなたのこと聞いていました。
「ずっと長い間」(for years)と時間の経過を表わしているので現在完了進行形を使っています。
初対面の人を自宅へ迎える‘Welcome to the family.’ はとても良い表現の一つです。
遠来のお客を迎える時などに、‘Welcome to Japan.’(日本へようこそ)とか ‘Welcome to Tokyo.’(東京へようこそ)とも言い換えられます。
初対面の挨拶、最後は「第三の男」の一場面から。
小説家ホリイ・マーチンス(ジョセフ・コットン)と偽装死を見せかけた旧友ハリー・ライム(オーソン・ウエルズ)。
第二次世界大戦直後、米英仏ソによる四分割統治下にあったオーストリアの首都ウイーン。
光と影を効果的に用いた映像美やカットなしで撮影されたラストシーンは、
民俗楽器のツィターが奏でる音楽と共に映画史に残っています。
MARTINS: Baron Kurtz? 「クルツ男爵ですか?」
KURTZ: Mr. Martins. Delighted to meet you. 「マーチンスさん、よろしくお願いします。
Come, let’s sit down here. どうぞ、こちらに座りましょう。
What would you like? Tea? Coffee? なにを召し上がります? ティー、コーヒー?」
MARTINS: Coffee. 「コーヒーを」
KURTZ: It’s wonderful, how you keep 「(あなたの小説は)とても、すばらしい。
the tension? 読者を緊張させているのは?」
MARTINS: Tension? 「緊張ですか?」
KURTZ: Suspense. 「サスペンスです」
―「第三の男」 (The Third Man 1949年 製作・監督:キャロル・リード 脚本:グレアム・グリーン)
(まとめ)
初対面のあいさつの要素は3つ。
1)あいさつ
2)自分の姓名
3)相手に対する敬意、会えた喜びの表現
となりますが、具体的には
こんにちは Hello,
私は原島一男です I’m Kazuo Harashima.
お目にかかって光栄です It’s a pleasure to meet you. が適切
そのときに、相手の名前をつけるともっとていねいになります。
「お目にかかって嬉しいです、ジョンソンさん」
‘Pleased to meet you. Mr. Johnson.’
相手の名前を聞き取れなかったときには、
「もう一度、お名前を?」 ‘Your name, again?’
「お名前をもう一度お願いします」 ‘What’s your name, again?’ などと相手の名前を聞き直すことは失礼ではありません。
ほかには、
・My name is Akira Shimizu. とは言わないこと。
これは日本人の多くの人が使う言葉なのですが、これはTVインタビューなどで、
‘What’s your name?’ と聞かれたときの答え方です。
・そこで、’I’m Kazuo Nakamura.‘ と I’m で始めるか、’Nakamura.’ と名前だけを言うのがいいでしょう。
・電話では、 This is Aya Suzuki. と言います。
・ビジネスなど正式の場所では、 Suzuki, Aya Suzuki. と苗字、名前、苗字の順で言います。
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原島 一男
Kazuo Harashima
一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。