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COLUMN コラム

名作にみる美しい英語

2019.12.16

名作にみる美しい英語(160)

原島 一男

“Is this yours, Mom?”    「これママの車?」
“A friend let me borrow it.” 「お友達が貸してくれたの」
“Can I sit in it?”        「座ってもいい?」
“Go ahead.”          「もちろん」
 (トム・ハンクス作「変わったタイプ」から「特別な週末」)

 小説や映画などの名作から選んだ美しい英語を紹介する連載。
そのフレーズが生まれた時代や背景を色濃く伝え、使った人の気持ちを具体的に表します。
それをじっくり観察することで、あなたの今の英語を鍛えあげましょう。言うまでもなく、一つのフレーズだけでは、その作品の全貌をつかむことはできません。
しかし、それが、あなたを刺激することもあるかもしれません。
 

 トム・ハンクスといえば、ハリウッド映画の名俳優として世界中に知られています。
ハンクスは読書好きで機械式手動タイプライターのコレクターであることも話題になっていました。
そして、2017年、タイプライターをタネに人生を語る短編小説「変わったタイプ」を発表。
章の区切りにはタイプライターの写真をみることもできます。
 「特別な週末」(Special Weekend)は、1970年の春先に、まもなく10歳になるケニー・スタールが経験する週末の話。
ケニーの父親は3人の子供を連れた女性と再婚し、新しい仕事につき、新しい家に引越し、ケニーの学校も決まりました。
その日、ケニーは新しい母親とドライブします。

“Is this yours, Mom?”               「これ、ママの?」
“A friend let me borrow it.”      「お友達が貸してくれたの」
Kenny was looking through the driver’s side windows. ケニーは運転席の窓を覗いていた
“Can I sit in it?”                        「すわってもいい?」
“Go ahead.”                              「もちろん」

Kenny figured out how to open the door and sat behind the wheel.
The dials and switches of the car looked like they came from a jet plane.
The wood paneling was like furniture.
The seats smelled like leather baseball mitts.
The red circle in the middle of the steering wheel said FIAT.
After his mother put her pink suitcase in the car’s trunk, she asked for Kenny’s help putting the top down.
(A Special Weekend from Uncommon Type by Tom Hanks  p190)

ケニーは、どうにかうまく、ドアを開けて運転席にすわった。
ダイアルやスイッチがジェット機のように並んでいた。
木製のパネルは家具のようだった。革シートは野球のミットのような匂いがした。
ハンドルの真ん中の赤い円のところに F-I-A-T と書いてあった。
母親はピンクのスーツケースを車のトランクに入れると、ケニーに幌を開けるを手伝ってほしいと言った。
(トム・ハンクス 作 「変わったタイプ」から「特別な週末」)
  

 それでは、この文章の中から、“A friend let me borrow it.”(お友達が貸してくれたの)と“Go ahead.”  (もちろん、どうぞ)を、映画からの表現もみながら使い方などを調べてみましょう。
 

 let は「~することを許す/特別に~させてあげる」という使役動詞なので、“A friend let me borrow it.”は「お友達が借りることを特別にさせてくれた」→ 「お友達が貸してくれた」となります。
 また、あなた自身が何かをしたいときには、let me + 動詞 「~させて」となります。

 ‘Let me do it.’ 「(私に)やらせてください」
 ‘Let me know.’ 「知らせてね!」      

「お知らせください」     ‘Will you let me know?’
「はなしてください」      ‘Please let me go. ’
「手伝ってあげるよ」     ‘Let me help you.’
「ランチは私に払わせてね」  ‘Let me take care of the lunch.’

・let go 「離す」    
・Let me go! = 相手に捕まってしまって、はなしてもらえないときに、「はなして!」と叫ぶ表現。
  丁寧な言い方なら、もしそういう余裕があったらでしょうが、 ”Will you let me go?”
 

DAVID: I know I've seen that face before.        「その顔は見たことがあるぞ。
             Let me see your profile again.     キミの横顔をもう一度見せてくれる。
             I know I know you.           うん、知っているぞ。
ー「麗しのサブリナ」(Sabrina 1954 監督:ビリー・ワイルダー 
 脚本:サミュエル・テイラ-、ア-ネスト・レーマン、ビリー・ワイルダー)

‘I really think you ought to have the dress. Let me buy it for you.’
   「本当にそのドレスを買うべきだと思うな。ぼくに買わせてくれませんか」
ー「幸福の条件」(Indecent Proposal  1993 監督:エイドリアン・ライン 脚本:スチュワート・ブルムバーグ)

   let と動詞の間の me  を モノに変えることで、「モノに~をさせる」となります。

 ‘And when I say “run”, run as fast as you can
  and don’t let the balloons go.’
「私が『走れ』と言ったら、できるだけ早く走って!風船を話さないようにして」 
ー「パリの恋人」(Funny Face 1956 監督:スタンリー・ドーネン 脚本:レナード・ガーシュ)

‘Just let the phone ring twice and then hang up.’
「電話のベルを2回鳴らしてから切るのよ」 
--「暗くなるまで待って」 (Wait Until Dark 1967 監督:テレンス・ヤング 原作:フレデリック・ノット 
 脚本:ロバート/ジェーン・ハワード・キャリングトン)

  次の ‘Go ahead.’ は相手に「どうぞ」と席を譲ったり、入口やエレベーターで「お先にどうぞ」と勧めたりするときの気配りの言葉ですが、「お先にどうぞ」という意味だけでなく、もっと積極的になにかを勧めるときにも使います。
 相手から“Would you mind?”「~しても構いませんか?/“May I?”「~してもよろしいですか?」と聞かれたときの答えとしても使います。
 この場合、 “Go ahead.”と言われたときには “Thank you.”と返しましょう。
 なお、日本の建築現場では「ゴーヘイ」と “Go ahead.”   の代わりに 声を掛け合っているそうです。

「この席が空いています。どうぞ」 “The seat isn’t taken. Go ahead.”
「どうも、ありがとう」      “Thank you.” 
         

「入ってもよろしいですか?」  “Do you mind if I come in?”
「いいですよ。どうぞ」     “No, go ahead.” 

「電話をお借りしていいですか」 “May I use the telephone?”
「どうぞ」           “Go ahead.”

 ここで取り上げているトム・ハンクスの小説の中で、もう一度 “Go ahead.”の実例を。

“Miss Abbott,” Kenny said.
“May I use some paper that says ‘Leamington Hotel’ on it?”
Miss Abbott kept typing. “What’s that?”
she said without looking up.
“May I use some paper that says ‘Leamington Hotel’ on it?”
“Go ahead,”  she said as she kept on typing.
(A Special Weekend from Uncommon Type by Tom Hanks  p197)

「ミス・アボット」、ケニーは言った。
「レミントン・ホテルの名前入りのペーパーを使ってもいいですか?」
 ミス・アボットはタイプライターを打ち続けていた。
 「なんですって?」
 彼女はタイプライターを打ちながら、見上げないで、言った。
「レミントン・ホテルの名前入りのペーパーを使ってもいいですか?」
 「どうぞ」、彼女はタイプライターを打ち続けながら、言った。
(トム・ハンクス 作 「変わったタイプ」から「特別な週末」)

――

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原島 一男

Kazuo Harashima

PROFILE

一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。

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