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COLUMN コラム

名作にみる美しい英語

2020.03.23

名作にみる美しい英語(163)

原島 一男

 “They look like white elephants,” she said.
 “I’ve never seen one,” the man drank his beer.
 「白い象のようだわ」と彼女は言った。
 「そんなものは見たことがないな」男性はビールを飲んだ。
 (アーネスト・ヘミングウェイ作「白い象のような山なみ」)

 小説や映画などの名作から選んだ美しい英語を紹介する連載。
そのフレーズが生まれた時代や背景を色濃く伝え、使った人の気持ちを具体的に表します。それをじっくり観察することで、あなたの今の英語を鍛えあげましょう。言うまでもなく、一つのフレーズだけでは、その作品の全貌をつかむことはできません。しかし、それが、あなたの感性を刺激することもあるかもしれません。

  The woman brought two glasses of beer and two felt pads.
 She put the felt pads and the beer glasses on the table
and looked at the man and the girl. The girl was looking off at the line of hills.
 They were white in the sun and the country was brown and dry.
  “They look like white elephants,” she said.
  “I’ve never seen one,” the man drank his beer.
  “No, you wouldn’t have.”
  “I might have,” the man said.
  “Just because you say I wouldn’t have doesn’t prove anything.”
(“Hills Like White Elephants” from “Men Without Women” by Ernest Hemingway)

 その女性は二組のビールのグラスとフェルトのコースターを持ってきた。
 そして、二つのフェルトのコースターとビールのグラスをテーブルに置き、その男性と娘を見つめた。
 娘は山の稜線を見つめていた。山々は日差しの中で白く、大地は茶色で乾いていた。
 「白い象のようだわ」と彼女は言った。
 「そんなものは見たことがないな」男性はビールを飲んだ。
 「ええ、ないでしょうね」
 「もしかしたら、見たことがあるかもしれない」男性は言った。
  「ただ、わたしが見たことがないと、キミが言っても、それを証明できないけどね」
 (アーネスト・ヘミングウェイ作「男だけの世界」から「白い象のような山なみ」)


 なんとよく物事を観察した実際の状況がはっきりとわかる文章でしょうか。
 いわずとしれた 20世紀のアメリカの文豪ヘミングウェイ (1899 - 1961)。 「誰がために鐘はなる」「海流のなかの島々」「武器よさらば」「キリマンジャロの雪」「移動祝祭日」など長編短編を問わず幾多の作品を残し、1954年にノーベル文学賞を受賞。ジャーナリストとして世界各地を取材し、このようなシンプルな文体で想像力を盛り上げ読む人々を圧倒します。
 この短編「男だけの世界」から「白い象のような山なみ」はスペインの北にある乗換駅。若いアメリカ人カップルがビールを飲みながら、マドリード行きの列車を待っている時の会話。女性は遠くに見える山の稜線を見て「白い象のようだわ」と言っています。ここで、男性は女性に何かを決断するよう説得しているのですが、女性はこれに応じていないようです。この作品の中で、女性は何度もこの ’白い象’ を口にします。

 白い象 white elephant(s)とは、Oxford や 英和辞典によると「無用の長物、もてあまし物、厄介物、費用ばかりかかり役立たず物」という意味。象はタイ、インド、スリーランカ、ビルマなどで聖なる動物とされており、記憶力が良く、執念深いといわれています。逸話では、シャム(タイ)では珍しい白い象を捕まえると王様に献上されていましたが、エサ代が高いので飼育に困難を極め、王様は気に入らない家来にその象を与えました。その結果、その家来は破産に追い込まれました。つまり、無用の長物になったのです。

 これで、タイトルの ”Hills Like White Elephants”「白い象のような山なみ」の持つ深い意味がよく判ります。

 それでは、ここで英語の使い方と映画からの会話を確認しましょう。
 どれもこれも、簡潔で洗練された表現ばかりです。
  今さらながら、ヘミングウェイが物事をいかによく観察し、その場面を説明する感性の ’鋭さ’を感じます。

・felt pad = フェルトのコースター
・The girl was looking off at the line of hills. は、その娘は遠く離れた山並みを見ていた(過去進行形)。    
 line of hills は山並み、off は「離れた」(副詞)。
・the country was brown and dry. = country は 国、田舎、土地 ですが、ここでは、地面 → 大地
・“They look like white elephants.” =「それらの山々は白い象の群れのようにみえる」

 cf. (参照):“You’ll look like a tree.”「きみは木みたいになるよ」(パリの恋人)

 “I wish young men would stop wearing white jackets in the evening. They look like barbers!” 
 「若いもんが夜、白い上着を着るのはやめてもらいたいな。床屋みたいに見える!」(麗しのサブリナ)

 “You don’t look like a bodyguard.”「あなたはボデイガードには見えません」(ボデイガード)

・“I’ve never seen one.” =「決して見たことがない」。one は、不特定のひと、もの、ことを表す代名詞。
 ここでは、white elephant のこと。

 cf. :JOE:  Well, life isn't always what one likes...「人生って思いどうりにいかない。
    Is it?                   そうでしょう?」                    
    ANN:  No... it isn't.                               「そうね」                         
-「ローマの休日」  (Roman Holiday 1953年 監督:ウィリアム・ワイラー 脚本:イアン・マクレラン・ハンター/ジョン・ダイトン 原作:ダルトン・トランボ)

 “In desperation one does not examine one's avenue of escape.”
「必死の時は、避難口など選んでいられないわ」
-「パリの恋人」  (Funny Face  1957年 監督:スタンリー・ドーネン 脚本:レナード・ガーシュ)

   avenue  = a way of approach、 avenue of escape = 避難口   

・“No, you wouldn’t have.” = “No, you wouldn’t have seen it.“「あなたは見たことがないでしょうね」
 cf.: could/would/should + have + 過去分詞は、過去のことについての推量を表わし、「~したはずです」「~しなかったでしょうね」など「思いつかなかった」「考えることもできなかった」「考えたこともなかった」「考えたはずもない」「それは意外だ」などと訳されます。 

 「私はヴェジタリアン(菜食主義者)です」 I’m a vegetarian.           
  「それは意外でした」             I’d never have guessed.

・“I might have.”  = I might have seen it. 「もしかしたら見たことがあるかもしれない」
  cf.:POLICEMAN: Is there anything to indicate   「家出したってことを示すものは
   that he, he might have run away? Any family     何かありますか?家庭内のトラブルとか、
   problems, or recent arguments?           最近、言い争いをしたとか?」
 --E.T.  (The Extra-Terrestrial   1982年 監督:スティ−ブン・スピルバーグ  脚本:メリッサ・マシソン)

・“Just because you say I wouldn’t have doesn’t prove anything.”
   = Just because you say I wouldn’t have seen it, doesn’t prove anything.
 わたしが見たことがない、とあなたが言っても、それは何の証明にはなりません

ーー
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原島 一男

Kazuo Harashima

PROFILE

一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。

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