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2018.06.18
菅野 真一郎
6.中国経済の概況と中国経済発展の要因
(5)中国経済の概況(その2)
前回は(1)2015~2017年実績、(2)2017年の経済実績の総論を説明しました。
今回は「対外経済」関係以下、個別の項目について説明したいと思います。
数字の大きさと拡大の早さに驚かされます。
(3)対外経済関係
①貿易規模は2017年の貿易額(輸出入合計) 4兆1,045億ドル、前年比+11.4%、内輸出2兆2,635億ドル、前年比+7.9%、輸入 1兆8,410億ドル、前年比+15.9%、貿易収支+4,225億ドルです。貿易額(輸出入合計)はアメリカやアジア、欧州経済の復調を主因に3年ぶりに対前年比プラスに転換しました。
貿易額は2013年に4.16兆ドル(437兆円)で世界第1位(輸入2位、輸出1位)に躍進して以降、2014年 4.30兆ドル、2015年 3.96兆ドルで世界第1位。2016年は3.69兆ドルで世界第2位(1位米3.71兆ドル、3位独2.39兆ドル、4位日本1.25兆ドル)になりましたが、2017年は再び 4,1兆ドルで世界第1位に返り咲いています(米は3.6兆ドル)。いずれにせよ中国は米国と並ぶ貿易大国と言えます。
但し中国の貿易の40%以上は外資系企業が担っている点に注目したいと思います(前回の表の貿易統計の2016年、外資企業の貿易額は中国貿易の45.8%を占めています)。つまり中国は外資を上手に取り込んで経済発展を実現してきたわけです。
貿易の外資依存率も過去のピークは70%前後あり、経済発展と共に中国企業も力をつけきたことを示しています。
②外資利用(海外から中国への直接投資)実績は 1,300億ドル、前年比+3.2%で引き続き堅調です。
なお中国の対外投資(中国からの海外直接投資)は 8,108億元(前年比-8.2%)―1ドル6.75元換算で1,201億ドル、その内「一帯一路」沿線国への直接投資は144億ドルです。
海外建設工事請負完成工事金額は 1,686億ドル(前年比+5.8%)で、海外での建設工事の建設資材、中国人労働者の賃金などが中心で、これは中国にとって貴重な外貨収入になっています。工事の大半は中国の発展途上国援助と言われています。
③外貨準備は2017年12月末残高 3兆1,399億ドル(前年末比+1,294億ドル)と、元安修正のためドル売り人民元買い出動(いわゆる為替介入)で2年続いた外貨準備減少が、為替介入が下火になるとともに増加に転じました。
なお2006年、日本を抜いて世界第1位になった中国の外貨準備高は、引き続き1位をキープしています。
④米国債保有は豊富な外貨準備の運用の一環で、2017年11月末 米国債保有残高は
1兆1,766億ドル、米国債の外国保有分の約20%強で、世界第1位、日本は 1兆841億ドル(2017年11月末)、第2位に位置しています。
(4)雇用
新規就業者(都市部)は1,351万人で、年間目標1,100万人を前年に引き続き2017年9月に前倒しで達成しました。
2017年12月末の都市登録失業率は3.90%、年間目標4.5%以下をクリアしています。
全国就業者は7億7,640万人、内都市部就業者は4億2,462万人です。
(5)人口
2017年12月末大陸人口は 13億9,008万人(前年比+737万人)。
60歳以上は2億4,090万人(全人口の17.3%)で既に高齢化社会に突入、今後医療費、社会保障費負担の拡大が見込まれ、中国の健全財政を脅かす課題になる可能性が大です。
65歳以上 1億5,831万人(同11.4%)。
16~59歳(労働年齢人口) 9億199万人(同64.9%)――2016年末比-548万人で減少に転じています。
0~15歳 2億4,719万人(同17.8%)。
2016.1.1より「二人っ子政策」がスタートし、2016年出生人口1,786万人、出生率12.95%、死亡人口977万人。別途国家衛生計画出産委員会副主任は「入院分娩出産数は1,846万人、合計特殊出生率は1.7%以上」との発言があります。
常住人口の都市化率は2016年12月末 57.35%(2015年12月末 56.10%)―戸籍ベースの都市化率は41.2%です(2017年12月末不詳)。
(6)その他の経済指標
①2017年中国の発電能力は 17億7,703万kwで世界第1位です。日本は2013年 2億8,700万kwで第4位、米国は2010年 10億3,900万kwで第2位です。
電源別内訳は火力発電 11億604万kw(62.2%),水力発電 3億4,119万kw(19.2%),原子力発電 3,582万kw(2.0%)、風力発電 1億6,367万kw(9.2%)、太陽エネルギー発電 1億3,025万(7.3%)です。
火力発電の大半は石炭火力ですが、環境対策のため新規建設やスクラップ&ビルドでは、LNG(液化天然ガス)化、発電能力規模の大型化が進められています。
なお近年中国は太陽光発電など再生可能性エネルギー発電に注力しており、環境対策の動きは極めて速いものがあります。ウルムチ郊外などで風力発電の鉄塔が林立する光景は圧巻です。
原子力発電比率はまだ2%で(稼働中23基,建設中26基、計画中30基前後)、2020年目標8,800万kwを掲げていますが、今後の動向には注意が必要です。
2017年新規発電能力増は1億1,830万kwで、日本の東電 6,505万kw、関電 3,691万kw合計1億196万kwを凌ぎます。即ち中国では毎年、東電と関電の2社が出現している状況です。
②高速道路総延長(2017年12月末)は 13万6,641㎞で世界第1位、米国は2位で9万4,000㎞(2008年)、日本は8,050㎞(2012年)です。
2017年の竣工距離は6,796㎞で、日本列島縦断(稚内――那覇 2,900㎞)往復プラス1,000㎞に相当します。
③高速鉄道(時速200キロメートル以上)総延長(2017年12月末)は 2万4,182㎞で、全世界の60%強に相当します。2017年の竣工距離は2,182kmです。ちなみに日本の全国新幹線網は、3,273㎞です。
④セメント生産量(2017年)は 23億4,000万トンで世界第1位です。
アメリカ 約8,000万トン、日本 約6,000万トン、インド 約2億8,000万トンで、中国の生産・消費量がいかに巨大かがわかります。上述の発電所、高速道路、高速鉄道などのインフラ建設のスピードを見れば、納得がいくのではないかと思います。
それでもさすがにセメント業界は鉄鋼業界と並ぶ過剰設備・過剰生産の典型業種で、2016年廃棄したセメント過剰生産能力は2億9,000万トンに達します。
⑤エチレン生産量(2017年)は 1,822万トン、米国は2,642万トン(2015年)、日本は688万トン(2015年)です。
⑥粗鋼生産量(2017年)は 8億3,173万トンで世界第1位。
2016~2017年で廃棄した鉄鋼過剰生産能力は1億2,000万トン、2018年は3,000万トンを削減する計画を掲げています。13次5か年計画削減目標(5年間で1~1.5億トン)を前倒し達成するとの報道(中国 苗圩工業情報相、2017.3.26)もあります。
⑦食糧生産量(2017年)は 6億1,791万トン(前年比+166万トン)。中国は国家の重要政策として食糧自給率95%を死守しています。(朱鎔基総理の時代に一時期食糧自給率を90%に引き下げたことがありますが、すぐに95%に復活しました)。
人口大国中国にとって食糧安全保障、農業は重要な政策課題です。「武器は無くとも人は死なない、食糧・水が無ければ人は死ぬ」からです。
ちなみに日本の食料エネルギー自給率は農地の工場用地転用などを進めた結果、現在は37~38%で、大きな社会・政治問題として議論されているのは皆さんご承知に通りです。(生産額ベースの食料自給率は70%という数字もあります)。
(この項続く)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。