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2018.08.13
菅野 真一郎
6.中国経済の概況と中国経済発展の要因(7)
(7)中国経済の概況(その4)
今回はこの項目の最終回で、日本と中国の経済関係、2016年時点の中国経済の到達点を述べたいと思います。
Ⅱ.日本と中国の経済関係
(1)日中貿易
日本と中国の経済関係の緊密度を測る指標の一つは日中貿易です。
2017年の日中貿易は、輸出金額が1,649億ドル、輸入金額が1,644億ドル、輸出入金額合計が3,293億ドルです。今や中国は日本の最大の貿易相手国であり、日中貿易は日本の貿易全体の20%を占め、2007年以来第1位の地位にあります。
中国にとって日本は、香港を除いて単一国家ベースで米国に次いで第2位の貿易相手国です。
ちなみに、アメリカは日本にとって第2位の貿易相手国ですが、日米貿易は日中貿易の70%、第3位の日韓貿易は日中貿易の25%に過ぎません。
(2)日本企業の中国進出
2017年の日本企業の対中投資32.7億ドル、前年比5.1%減と、一時の勢いは有りませんが、累積投資金額は1,000億ドル(10兆円)を優に超えています。
従来の安価な労働力を狙った製造業中心から、近年は非製造業進出が製造業進出を上回る勢いがあります。進出目的も中国の巨大マーケット狙いが中心です。
また中国の外資企業の出資比率規制緩和の動きが具体化しつつあり、今後は対象となる銀行、証券、保険やEVなど新エネルギー車分野の進出増加が見込まれます。
従来中国は外資導入に際しては「外商投資産業指導目録」にのっとり、「奨励」「制限」「禁止」「一般許可」業種に分けて選別していた方針も、上海浦東新区の「自由貿易試験区」での「ネガティブリスト方式」(*)が順次全国的に適用されることになり、外資導入は新たな緩和段階に入ろうとしています。
(*)ネガティブリスト方式
中国進出を認めない、あるいは条件付きで認める業種のリストを公布し、このリストにない業種の外資は原則進出自由となり、進出許認可手続きも簡略化されることになる模様です。
日本から中国への進出企業拠点数は約3万2,313拠点(日本の外務省HP)、世界から中国への進出企業数約30万社の10%を超える地位にあり、香港を除いて日本は第1位、アメリカは第2位(約2万社)と言われております。
(3)人的往来
2016年の日本から中国への渡航は 259万人(ピーク 2010年、371万人)に対して中国からの訪日者数は、2014年241万人、2015年499万人、2016年637万人、2017年975万人と、年々急速な増加傾向にあります。
国交省統計によれば、2015年訪日外国人は2,000万人、消費金額は3兆5,000億円、このうち中国人は25%(4人に1人)、中国人消費金額は40%(1兆4,000億円)で、中国人の存在感は極めて高いものがあります。
(4)その他
① 中国在留邦人は12.8万人(2016.10.1現在)で、米国在留邦人約42.2万人に次いで第2位、海外在留邦人約134万人の9.5%になります。在日中国人は約70万人です。
② 留学生は、日本→中国 1.4万人、中国→日本 9.8万人です。
③ 友好都市など友好協力協定は約350組で、世界各国の中で最多です。
Ⅲ.2016年の中国経済の到達点
2016年の中国経済の到達点について整理してみたいと思います。
これまでも述べてまいりましたが、中国は1978年12月の11期3中全会(中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議)で経済改革・対外開放政策を採択、1984年10月の12期3中全会で「社会主義的商品経済」推進の方針を採用、1992年10月の第14回党大会で今後のめざすべき経済政策の目標として「社会主義市場経済」を掲げ、1993年11月の14期3中全会で社会主義と市場経済の融合を目指し、最終的には国家のマクロコントロールの下、市場経済化を推し進める方針を決定、今日まで堅持しています。鄧小平が「経済がわかる男」と評価した朱鎔基副総理(のちに総理)なくしては実現できなかった経済政策だったと思います。
16年に及ぶ加盟交渉を経て2001年12月WTOに加盟、経済面の国際社会入りを果たし、以後中国経済は飛躍的発展を遂げてきました。
(政治的には、1971年10月、国際連合復帰で、国際社会入りを果たしています)。
以下に時系列的に主な出来事を列記してみたいと思います。
①1979年~2013年 GDP平均実質成長率9.8%前後
②1980年 世界銀行加盟、IMF(国際通貨基金)加盟
→1996年 IMF8条国移行(経常取引きでの人民元の交換性回復) BIS(国際決済銀行)加盟
③1986年 ADB(アジア開発銀行)加盟、GATT(関税と貿易に関する一般協定―WTOの前身)加盟申請
→2001年12月 WTO加盟(143番目)
2006年 外貨準備高が日本を抜き世界第1位
2010年 名目GDP(ドルベース)が日本を抜き世界第2位
2010年 製造業のGDPは米国を抜き世界第1位
2012年 世界の個人消費に占めるシェア 米26.6%、日8.7%、中7.1%
2013年 中国のGDP世界シェアは12.5%
2013年 貿易額が米国を抜き世界第1位
――世界輸出額の11.8%(1位)、世界輸入額の10.3%(米に次いで2位)
④2016年 中国GDP 11.23兆ドル―2010年以降世界第2位
米国 18.62兆ドル(第1位)
日本 4.94兆ドル(第3位)
独 3.48兆ドル(第4位)
全世界 75.26兆ドル(中国のシェアは14.9%)
中国貿易額 3兆9,569億ドル―2013年以降世界第1位
米国 3兆7,060億ドル(第2位)
日本 1兆2,525億ドル(第4位)
独 2兆3,930億ドル(第3位)
中国外貨準備高 3兆105億ドル―2006年以降世界第1位
日本 1兆2,165億ドル(第2位)
スイス 6,789億ドル(第3位)
サウジアラビア 5,173億ドル(第4位)
米 4,059億ドル(第5位)
独 1,840億ドル(第12位)
cf 2016年 ―― 日中貿易額 2,748億ドル、米中貿易額 5,195億ドル
日本がドイツを抜きGDP世界第2位に躍進したのは1968年、明治維新(1868年)から100年。中国が1978年改革・開放スタート(GDP世界第27位)から世界第2位に躍進したのは32年。速いスピードの最大の理由は経済改革を踏まえた対外開放(外国企業誘致)政策にあります。
ただし小生は、ドイツの国際政治、経済での高い存在感、国内経済のしっかりした基盤を考える時、GDP順位はあまり意味を持たないと考えます。
(つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。