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2019.01.28
菅野 真一郎
4.合弁パートナーの選定(2)
④行政トップの紹介に安心しないこと
中国の行政トップ(省長、市長、県長や主任、局長など)の紹介は、必ずしも事業の最適先紹介という訳ではありません。合弁件数のノルマ達成、個人的コネ(息子や縁戚がいる)、自分や部下の天下り先確保、赤字国有企業の建て直しを図る押し付けという場合も多く、行政トップの紹介だからということで気を緩めずに、しっかり調査することが肝心です。
また、友好都市や友好県・省の訪中団、訪日団の関係の中でのパートナーの選定は、日中双方でそれぞれ団長クラスの知事、省長、市長などから急がされやすいので、当事者としてはより慎重な対応が必要です。経験では、友好都市や友好県・省訪中団の歓迎宴で、中国側トップの省長や市長から地元の歴史ある大型企業との合弁パートナーを紹介して欲しいとの要請があり、日本の団長の知事や市長が無邪気に、「それはちょうどいい、今回のメンバーの〇〇社長は同じ業種で日本の地元老舗有力企業です」と言って、「〇〇社長如何でしょう」などと口をきいたのがきっかけというものです。中国側は先刻メンバーを詳しく調べていて、さも偶然に同業の合弁の相談をするような芝居をするわけです。
トップ(省長)に紹介された合弁事業(産業資材製造販売)が動き出すまで数年を要して日本側が大変苦労させられた事例もあります。友好都市関係ではありませんが、市長から頼まれ取り組んだ都市開発P/Jの合弁パートナーが有力大型国有企業でも、合弁企業に派遣されてきたのが日本軍と激しく戦った新四軍の上層部だった人物で、日本に対してどんな恨みがあるのか、日本側がほとほと苦労させられた事例もあります。トップ(省長)から勧められたホテル合弁のパートナーが必ずしもホテル事業に詳しくなく、計画用地も昔の墓場の跡地だったことがホテル完成後に判明して、集客に苦労している事例もあります。
もちろん合弁パートナーを関係行政当局に頼んで紹介してもらうというのはよくあることで、行政当局の紹介が全てダメというわけではありません。紹介された相手を慎重に納得いくまで調べることができるかどうかがポイントです。
⑤必ず複数の候補先を比較検討
とくに、合弁パートナー候補は1社だけを検討するのは避けて複数の候補先を比較検討し、断る退路を確保しておくことが大事です。
先方の行政トップは「この相手が最良です」と言うので、紹介先が1社のケースが多く、複数紹介を口にするのが難しいのが実情ですが、初期の段階から自分の考えをきちんと伝える心構えが重要です。また、1社だけですと断ったときの反響が大きく、別の案件で仕返しや横槍を入れてくる例があります。
⑥中国側パートナーは単数が望ましい
中国人は合理的な物の考え方をしますが、行動は面子を優先する場合が多いので、事業運営面でトラブルが発生しやすく、些細な行き違いの積み重ねにより、中国側同士で抜き差しならないこじれた関係になりやすい傾向があります。孫文でさえ「中国民族は砂の民」と嘆いたくらい、中国人同士では協調性やまとまりがとりにくい傾向にあります。
よく当該業種の上部機関の実業公司、あるいは同じ行政系統の貿易部門(販売部門)がわずかな出資シェアで関与するケースがありますが、避けていただきたいと思います。日本で開かれる董事会に参加する(海外渡航する)人数の調整でもめたり、販売価格や輸出価格の設定でもめてギクシャクした関係になるケースがあります。中国側は1社の方が、交渉や運営がスムーズに進みます。
(この項つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。