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2019.05.13
菅野 真一郎
6.合弁パートナーの選定(1)
今回から中国での合弁パートナー選定にあたって留意すべき事項について述べてみたいと思います。
中国事業の成否は製品の市場性が最大のポイントであることは、日本での事業の場合と全く同じですが、特に中国での合弁事業の場合は良いパートナーに恵まれるかどうかも非常に重要な要素となります。
“中国での合弁事業は良いパートナーに恵まれれば90%成功”と言われます。私も同感です。ではどうやって良いパートナーを探すか。残念ながらマニュアル的決め手はありません。進出目的、業種、地域等考えられるあらゆる角度から、今後20~30~50年一緒に事業をやっていくのに相応しいかどうか入念に調査し、最後は経営判断といった抽象的アドバイスが正解ともいえます。調査の際の留意点について述べてみたいと思います。なお長年の経験から、合弁を人生の“結婚”にたとえて考えると諸々の点でわかりやすいと思います。早い話が“中国合弁は良いパートナーに恵まれれば90%成功”などはその典型ではないでしょうか。
(1)まず総論的なことを申し上げると、パートナー候補の経営理念と経営者の人格、哲学(信念)は最も基本的で重要なポイントです。この点は世界共通です。
京セラの稲盛和夫氏が主宰する「盛和塾」(*)は中国でも隆盛で多くの会員を集めているということです。農村の郷鎮企業から立ち上がった民営企業の経営者には、日本企業の経営哲学を学び自社の経営理念に取り入れている例は少なくありません。
江蘇省無錫市で、農民出身の変圧器メーカーの60歳代の総経理(社長)が社長室の書棚に、松下幸之助氏の経営に関するDVD全集を揃えていて、日本の同業者との合弁による技術向上を希望している相談を受けたことがあります。後継者の息子はイギリスに留学していて英語と経営学を勉強しているという話も聞きました。
安徽省合肥市で小型トラックメーカーからスタートして、バンタイプや乗用車分野にも進出した国有中堅自動車メーカー(当時はバンタイプまで)を訪問した折、いろいろ説明を聞いていると社員の教育、人材育成や研究開発に熱心なことがわかってきました。当方の質問もついその点に集中したところ、先方から「あなたは会社の経営理念や人材育成に関心があるようだが、まさに当社董事長の経営方針の柱である。相性が合う日本メーカーがあれば、合弁や業務提携先として紹介して欲しい。今韓国の自動車メーカーと技術提携契約の交渉を進めている」と言われ、改めてその方面をアピールするパワーポイントを取り出してきて詳しい説明がありました。本社ビル1階の展示スペースの説明文や図表も簡潔でわかりやすく、面談した説明者も落ち着いて当方の質問に丁寧に答えてくれて、いい印象を持ちました。当時日本のある自動車会社から合弁候補先の調査と、別にいい合弁パートナー候補があれば紹介して欲しいとの依頼があり、北京で発展改革委員会の局長級の知人に相談したところ、「規模はまだ小さく地味な存在だが、人材育成や技術開発を大切に着実に成長している自動車メーカーがある。董事長の人格も立派だと思う。業績も連続増収、増益を記録している」と紹介され訪問したのがきっかけでした。日本のメーカーは興味を示しませんでしたが、同社は今では乗用車生産も手掛け、2017年にはドイツの著名な大手自動車メーカーと電気自動車生産の合弁会社を設立しております。李克強総理がドイツを訪問した折に、メルケル首相も立会い調印式が行われたという新聞報道は、同社が着実に成長していることをうかがわせるものでした。
広い中国、じっくり調査をすれば、必ず納得できる合弁パートナーを探し出すことは可能であるということの一例です。
(*)盛和塾
稲盛和夫氏(87歳)の経営哲学を学ぶ組織で、日本では1983年に発足、2018年末をもって稲盛氏の高齢を理由に解散したが、中国では2007年に発足し、北京ほか37の塾があり約7000人の会員がいて活発に活動していることから、稲盛氏は、中国での活動継続を認めている。
(この項つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。