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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2020.07.06

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第81回)中国進出の留意点(17)

菅野 真一郎

西江千戸苗寨

1.入念な事前調査の重要性
(1)実査とヒヤリング
 ②現場を実査し、詳細なヒヤリングを行う

 製造業の進出を想定した場合、実査すべき現場はいくつか考えられます。
 まず工場建設候補地です。工場の操業、運営に必要な条件を満たす候補地(多くの場合、各地の工業開発区―日本の工業団地に相当―がインフラも整備されていて有力です)をできるだけ多く視察し、比較検討することです(*1)。必ず開発区の建設や運営に携わる「〇〇工業開発区管理委員会」がありますから、主任、副主任クラスを訪ね、いろいろヒヤリングすることが必須です。予約をすれば、関係者も同席します。

 労働者の供給力(初中―日本の中学校、高中―日本の高校の学校数や毎年の卒業生の数)、賃金水準のチェックは不可欠です。同時に、職員の通勤経路(昔は自転車が中心で半径15㎞が通勤圏、今はオートバイや自動車が多いので、通勤圏は広がりましたが、駐車場スペースが必要)や駐在する日本人幹部職員の住宅事情(通勤は社用車)と生活環境チェックも欠かせません。社会制度や生活習慣が異なる中国では、快適な住環境の確保はおろそかにできません(*2)。

 電力供給力をチェックする際には、変電所の位置、容量の確認、製紙やプラスチックフィルム製造・加工などの連続運転工場の場合には、2か所の変電所からの電気引き込みが可能かもチェックする必要があります。幸い最近は昔のような「計画停電」は基本的には解消していますが、念のため確認が必要です。仮に2か所の変電所から電気を引き込む場合の費用負担の有無も確認しておくべきです。電力の場合、回転を多用する精密機械の安定操業のため、電圧の安定性も要確認事項です。

 上・下水道に関しては、工業開発区の汚水処理場の有無、処理能力と受け入れ汚水の汚濁基準も要調査です。受け入れ容量と受け入れ汚濁基準次第では、自社工場での一次処理を求められることがあります。そのための設備も必要になります。

 ヒヤリング先としては、同じ工業開発区に既に進出している日本企業の責任者も重要です。原材料や部品の工場の進出状況や分布状況のマップを作成し、実査すると同時に、すぐに使える工場とそうでない工場を把握します。そのうえで半年に一度は視察して品質向上の程度をチェックすることです。やる気がある中国企業の場合、進歩が速いのに驚かされます。

 メッキなどの外注加工先は、排水処理状況と残滓処理状況もチェックする必要があります。今は「地元保護主義」などで見逃されても、将来事故が発生して操業がストップさせられる危険性があります(上海郊外で前例あり)。

 ヒヤリング先で以外に気が付かないのが、前々回に申し上げましたが、日系の運送会社、ゼネコンの駐在責任者です。商売柄原材料、部品の製造工場進出状況・分布状況に詳しく、また同業他社の動向や進出検討状況にも詳しいことがあります。更には新聞には報道されていない労働争議(ストライキなど)や事故などのトラブル情報も実にこまめに収集、把握しています。

 その他のヒヤリング候補先としては、日本の銀行や商社の現地駐在責任者で、進出サポートの経験が豊富で問題意識が高い人物です。
 ヒヤリングでは、以前も述べましたが、行政当局との面談や合弁パートナーとの交渉で確認すべきチェックポイントをできるだけ詳細にリストアップすること、費用がかかる事項については、その費用水準や負担者、所用期間も確認することです。

 事前調査では、いかに品質的、価格的に競争力のある製品を作ることができるかを確認、したがって人件費、土地代、各種インフラ(電気、ガス、水道、排水処理、整地(*3)など)、各種税金や諸費用(地域特有の乱収費など)をどれだけ低く抑えられるかを調べて、確信をもって進出を決断することです。「日本で作るより安い」ではなく、「中国企業より安い」が目標であるべきだと思います。

(*1)合弁で進出する場合、合弁相手の工場敷地内に合弁会社の工場を建設するケースがありますが要注意です。当該合弁パートナーが電気代や電話代などの支払いを滞った場合に、一緒に電気を止められたり電話を止められたりします(瀋陽市の大型国有バルブ工場の事例など)。また合弁工場が完成していよいよ操業開始の段になって、合弁パートナーから「工場敷地の正門から合弁工場までの通行部分の通行料を支払え」と言われて紛糾した事例(大連市ほか多数)などがあります。
(*2)日本人駐在員の家庭の事情で、学童年齢の家族を帯同して内陸に赴任する必要がある場合、子供の学校問題があります。最近は家族を上海などに住まわせて、主人は内陸に単身赴任するケースも見かけます。家族が中国国内に住んでいれば、日本に住んでいるよりもはるかに便利なことは言うまでもありません。
(*3)地盤補強対策、浸水防止対策のため、土盛りと整地が必要な場合、工業開発区管理委員会が「開発区建設もやったので、我々が請け負える」と言われ発注、大失敗の事例がありました。65,000㎡の土地(江蘇省)の土盛り、整地を任せていましたが、将来工場建設を担う日系ゼネコンの責任者が「大変です、がれきを土盛りに投入しています」と事務所に飛び込んできました。もちろんすぐに中止させました。上海の浦東開発区で、大型AV製品工場(10万㎡)の土盛り、整地を開発区管理委員会に委託して、整地も終わり工場建設に取り掛かったところ、一面にがれきが敷き詰められていて(表面には普通の土が敷き詰められていてわからなかった)、工事前のがれき撤去に時間と費用を浪費した事例もあります。事前勉強会では、前記江蘇省の例も話して注意を喚起していたのですが、日本人総経理の方は「工事準備に入るといろいろな問題が噴出してきて、勉強会の内

(つづく)   

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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