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2018.03.05
北原 敬之
筆者は普段あまりテレビを見ませんが、オリンピックの時は別で、今回の平昌冬季オリンピックでも、日本選手が出場した競技種目はほとんど見ました。日本選手がメダルを獲得したシーンを見ると感動し、同じ日本人として誇りに思いましたが、同時に、いくつかの競技では、企業経営やマネジメントに参考になりそうな発見もありました。その1つが、銅メダルを獲得したカーリング女子日本代表チームです。ストーンを繊細なコントロールで氷上を滑らせて相手のストーンをはじき出す技術や、ストーンのポジショニングや相手との駆け引き等の戦術はもちろんですが、筆者が最も感銘を受けたのは、素晴らしい「チームワーク」でした。カーリングでは、各選手がピンマイクを装着してプレーするため、選手同士の会話がテレビ放送でもよく聞こえますが、カーリング女子日本代表チームのメンバー間のやり取りを聞いていると、日本の組織の特徴である「日本型チームワーク」の強みが生きているように感じました。今回のコラムでは「チームワーク」について考えてみましょう。
カーリング女子日本代表の「チームワーク」を、①リーダーシップ ②コミュニケーション ③組織能力の3つの視点から分析してみます。
①リーダーシップ
代表チームのキャプテンである本橋選手は、試合には出ずにリザーブ(控え)に回って、メンバーのケアや、アイスやストーンの状況をチェックして試合の戦術・作戦に活かすなど、チームを支える役割に徹していました。また、司令塔と呼ばれるスキップの藤沢選手も、前面に出て指示を出すというよりも、メンバーの意見をうまく集約しながら戦術を決めていくスタイルを堅持していました。残りの3人のメンバーは、このふたりのリーダーをリスペクトしつつ、伸び伸びとプレーし、自分たちの知恵と技を最大限に発揮しているように見えました。リーダーが先頭に立つ率先垂範のアメリカ型リーダーシップを「強いリーダーシップ」とするなら、リーダーが前面に出ずメンバーを支えることに専念する日本型リーダーシップは「柔らかいリーダーシップ」でしょうか。
「リーダー」と「フォロワー」の区別がはっきりしているアメリカの組織文化には、「強いリーダーシップ」が向いていますが、リーダーとフォロワーをはっきり区別せずメンバーの一体感とモチベーションを最優先する日本の組織文化には、「柔らかいリーダーシップ」が向いています。カーリング女子日本代表は、この日本型の「柔らかいリーダーシップ」が最高の形で実現しているチームであると感じました。
②コミュニケーション
信頼とコミュニケーションはチームワークの基盤です。ピンマイクを通して聞こえてくるメンバー同士の会話からは、次の一投の戦術について率直な意見交換や議論が行われている様子が伝わってきました。話題になった「そだねー」という方言によってソフトなイメージがありますが、かなり激しい意見の対立もあったようです。リーダーやチームメートを信頼しているからこそ、安心して反対意見を言えます。カーリング女子日本代表チームでは自由闊達なコミュニケーションが行われていた証拠ですね。
アメリカの組織文化では、「Chain of Command」(指揮命令系統)の考え方が強いため、上下のコミュニケーションは良いのですが、左右のコミュニケーションが不十分になる傾向があります。日本の組織文化では、建前としての指揮命令系統と関係なく、上下左右との情報共有やコミュニケーションを大切にする風土があり、それが日本型チームワークの強みになっています。
③組織能力
アメリカ型のチームは、リーダーとフォロワーがはっきり区分され、各メンバーの役割が明確に決まっている「モジュール型」ですが、日本型のチームは、リーダーとフォロワーの区分がはっきりせず、メンバーの役割分担も大雑把な「あいまい型」です。別の言い方をすると、アメリカ型チームは、メンバーの個人能力の総和がチームの能力になるのに対し、日本型チームは、リーダーとフォロワーの区分もメンバーの役割分担も大雑把であるが故にお互いに協力し合うので、チーム能力が個人能力の総和を上回ることが多いと考えられます。
カーリング女子日本代表チームは、チームとしての一体感とメンバー各々の役割を超えた情報交換と協力によって、チーム能力が個人能力の総和を上回る「日本型チームワーク」の強みを体現していると感じます。
メダリストを揃えたオランダを破って金メダルを獲得したスピードスケートのパシュート競技の日本代表チームも「日本型チームワーク」の好例ですね。
筆者は、日本企業の強みである「現場力」は、「柔らかいリーダーシップ」と「自由闊達なコミュニケーション」と「あいまいな日本型組織」に基づく「日本型チームワーク」によって生み出されるものだと考えていますが、平昌オリンピックのカーリング女子日本代表チームの中に、同じ「日本型チームワーク」の3つの要素を発見し、うれしく感じました。
今回は「日本型チームワーク」の強みに焦点を当てましたが、「アメリカ型チームワーク」にも強みがあります。例えば、危機対応時や優れたリーダーに率いられた時などは「アメリカ型チームワーク」の方が高い組織能力を発揮します。良い悪いではなく、日本型・アメリカ型双方のチームワークの形とその成り立ち・違いを理解した上で、マネジメントに活かしていくことが必要ではないでしょうか。
北原 敬之
Hiroshi Kitahara
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。