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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2018.04.23

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」45 『寿司ルートとハンバーガールート』

北原 敬之

ラッセン火山国立公園:カリフォルニア州北中央部にあるアメリカ合衆国の国立公園

 「寿司ルートとハンバーガールート」、アメリカに駐在した経験をお持ちの読者はご存じだと思いますが、日本企業のアメリカ駐在員の間で昔から使われている一種の隠語で、「寿司ルート」は「日本人駐在員間の情報ルート」を意味し、「ハンバーガールート」は「アメリカ人社員間の情報ルート」を意味します。原理原則論から考えれば、「組織の情報ルートは当然1つであるべきで、日本人とアメリカ人で別々の情報ルートなどあってはいけない。」と言うことができますが、そんな単純な話ではありません。アメリカに拠点を持つ日本企業では、文化も言語も異なるアメリカでのマネジメントにおいて、日本人駐在員もアメリカ人社員も、日本本社も含めたコミュニケーションや情報共有に長年苦労してきましたが、その中で、「理想的ではないが現実的な1つの方法」として、自然発生的に行われるようになったのが、日本人駐在員間とアメリカ人社員間という二本立ての情報ルートです。今回のコラムでは、「寿司ルートとハンバーガールート」という切り口から、在米日系企業のコミュニケーションと情報共有について考えてみましょう。

 日本企業の本社、特にグローバル・コミュニケーション力が不十分な日本企業の本社では、海外拠点に連絡する場合、電話でもEメールでも、日本人駐在員に対して日本語で連絡するケースが多く見受けられます。
 つまり、情報の入口から既に「寿司ルート」になっているということです。本社から日本語のEメールを受け取った駐在員は、関係する日本人にはEメールをそのまま転送すれば「情報共有」できますが、アメリカ人社員と「情報共有」しようとすると、Eメールの内容を英語に訳す必要があり、忙しくて後回しにしたり、英語力が不十分でEメールの内容がきちんと伝わらなかったりして、日本人同士の場合に比べて「情報共有」のレベルが低下してしまいます。アメリカ人も、そういうことをよくわかっていて、英語力・コミュニケーション力が弱い日本人に聞くよりも、アメリカ人(アメリカ人の中にも日本人との「情報共有」が上手い社員がいます)に聞いた方が精度の高い情報が得られることをよく知っているので、アメリカ人同士の情報ルートを頼るようになります。これが「ハンバーガールート」です。つまり、「仕事をするには精度の高い情報が必要で、精度の高い情報を得るために、アクセスしやすくて信頼できる情報ルートを活用する。」という当たり前のことをしたいアメリカ人社員にとっては、「ハンバーガールート」は「ベストではないがベターな選択」なのです。アメリカ人と日本人の間に「壁を作ろう」という意図は全くありません。

 「寿司ルートとハンバーガールート」は言い換えれば、コミュニケーションと情報共有が「日本人向け」と「アメリカ人向け」の「二重構造」になっているということですが、「二重構造」には「悪い二重構造」と「良い二重構造」があると思います。 「悪い二重構造」とは、1つの情報が「日本人流」「アメリカ人流」にそれぞれ解釈されて、「寿司ルート」「ハンバーガールート」で流される状態です。途中で2つのルート間での情報交流がないので、日本人とアメリカ人の間で「コンフリクト」は発生しませんが、「共通の理解」「共感・共鳴」も生まれません。
 「良い二重構造」とは、いろいろなレベルで、いろいろなタイミングで、2つのルート間で「情報の交流」が行われる状態です。日本企業のアメリカ拠点には、英語力・異文化コミュニケーション力が高く、日本人・アメリカ人双方の共通理解・コンセンサスを形成する能力を持つ駐在員がいます。筆者はこういう人材を「Interface」と呼んでいますが、「Interface」人材が「寿司ルート」「ハンバーガールート」間の情報交流を行うことによって、「共通の理解」「共感・共鳴」を生み出していれば、情報ルートが2つに分かれていても、問題はありません。
 情報が複雑であればあるほど、「Interface」人材の役割が重要になります。在米日本企業は、現地化をすればするほど、「Interface」人材のニーズが高まるので、長期的に育成していくことが必要でしょう。

 「日本人もアメリカ人も一元化された情報ルートでコミュニケーションや情報共有が行われている状態」が「あるべき姿」であり、日本企業はその実現に向けて努力すべきであることは言うまでもありません。しかし、もし、それに見合う実力(語学力・異文化理解力・コミュニケーション力など)がないのに、「寿司ルート」と「ハンバーガールート」の二重構造を無理に解消しようとすれば、反って、日本本社・日本人駐在員・アメリカ人社員の間の情報共有やコミュニケーションの質の低下をもたらし、マネジメントに不可欠な「共通の理解」「共感・共鳴」を生み出すことができなくなってしまう可能性もあります。まず自社のアメリカ拠点の情報共有・コミュニケーションの状況を点検し、もし「悪い二重構造」になっているなら、「Interface」人材を育て、「良い二重構造」に転換することが第一歩です。

 繰り返しになりますが、「寿司ルートとハンバーガールート」は、日本企業のアメリカ拠点が異文化環境での情報共有やコミュニケーションに長年苦労する中で生まれて定着してきた「手法」です。この二重構造を解消するのは簡単ではありません。日本の本社も、アメリカ拠点も、日本人も、アメリカ人も、統一された企業理念・企業文化の下で、共通言語(languageという意味でなく、その企業でグローバルに共有される用語)で情報共有やコミュニケーションができるようになった時が、二重構造が解消され、「寿司ルートとハンバーガールート」が死語になる時です。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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