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2018.11.05
北原 敬之
先月、日本経済団体連合会(経団連)が会員企業向けに会社説明会や面接の解禁時期などを定めた「新卒採用活動の指針」(いわゆる就活ルール)の廃止を表明したことが波紋を広げています。就活ルールの廃止によって就活時期が早まり学業に支障をきたすことを心配する大学側からの大反対や、ルールが無くなることによる混乱を心配する企業の反対の声に押されて、政府主導の新たな就活ルールが導入されることになり、当面の混乱は回避されましたが、新ルールの実効性に対する疑問もあり、今後の展開がどうなるか心配されます。筆者は、この問題の根底には、日本独特の「新卒一括採用システム」だけでは、産業界の多様化する人材ニーズに対応できなくなってきていることがあると思います。今回のコラムでは、日本とアメリカの「就活」を比較することによって、企業の採用活動の在り方について考えてみましょう。
筆者は、ビジネスマン時代、日本でもアメリカでも社員の採用に関わった経験がありますが、人材活用についての考え方が日本とアメリカで大きく異なり、それがそのまま採用システムの違いになっています。
日本では、新卒で採用した社員を企業が内部で教育して必要な人材に育てます。したがって、育てる前の「素材」のプールとして、新卒者を大量に採用する必要があります。これが、日本企業が長年続けてきた「新卒一括採用システム」の理由です。日本中の大学生が、同じ時期に就職活動し、同じ時期に内定し、同じ時期に(4月1日が多い)に入社するという、日本の「集団主義」「横並び主義」文化に合ったやり方ですが、時期や選考方法が固定化されるため、外国人留学生や海外大学卒業生に不利な面があるとか、企業の独自性を発揮し難いといった欠点があります。採用される側(学生)の視点で考えると、一定期間内に複数の企業を受験して内定を得た中から選択できるというメリットがある反面、職種は採用時点では不明で入社後に決まるという「会社まかせ」のやり方です。「就職」と言うよりも「就社」と言った方が実態に近いですね。また、景気の良し悪しによって、企業の採用意欲が変動するため、いわゆる「売り手市場」の年と「買い手市場」の年で、就職状況に大きな差が生まれ、就活時期が不況の年に重なった学生は就職に苦労するという、生まれ年による不公平といった現象もあります。(これは就活のチャンスが1回=1年しかないというシステムにも起因しています)
アメリカでは、社員の退社や部門の新設などで必要になった新しいポジションに相応しい人材を、人材供給市場(新卒者もここに含まれる)から「即戦力」として調達します。したがって、必要な時に外部から調達するので、社内にあらかじめ「素材」をプールしておくことはありません。日本のいわゆる「定期採用」「中途採用」という区別もありません。アメリカの「個人主義」「競争社会」文化に合ったやり方ですが、個人と会社との「雇用契約関係」という意識が強くなるため、愛社精神や同僚との連帯感が高まり難いという欠点があります。採用される側の視点で考えると、新設あるいは空席のポジションを補充する形の採用となるため、職種が明確であるというメリットがある反面、日本のような一括採用に比べると、選択肢が少なくなるといった欠点もあります。
筆者は、アメリカ駐在時代、多くのアメリカ人の採用面接をした経験があります。特定のポジションについて社内外から公募し、書類選考で合格した候補者を面接する形ですが、募集するポジションに必要な知識や実務経験が明確なため、知識・能力といった面の評価については、アメリカ人が自分の知識や能力を誇張する傾向があること(移動型狩猟民族競争社会のアメリカではそれぐらいしないと生き残れません)に注意さえすれば、それほど難しいことではありませんでした。ただし、日本企業の必須科目である「情報共有」や「チームワーク」「コミュニケーション」といった観点から候補者を評価するには、かなりの英語力と面接テクニックが必要でした。
日本でもリクルーターや面接官として大学生の面接を経験していますが、個人的には、日本企業の文系学生の採用がいわゆる「人物本位」と呼ばれる評価基準に偏っていて、大学での勉強の成果としての「知識・能力」の評価基準が今一つ明確でないと感じていました。「素材」として評価するという考え方だと思いますが、日本の大学の文系学生があまり勉強しない一因になっているという説もあります。
前述した「就活ルール」ですが、外資系企業や経団連に加入していない企業などは、ルールに縛られることなく、横並びの「新卒一括採用システム」から脱却して、「通年採用」(1年中いつでも受験可能)や「先行採用」(大学1~2年生で就職内定し後は勉強に専念),「秋採用」(留学生や海外大学卒業生の卒業時期に合致)「職種別採用」(採用時点で職種を明確にして募集)等の新たな採用システムを導入している企業もあり、事実上、多様化が進んでいます。「新卒一括採用」が長い間日本企業の採用システムとして定着し、日本の経済成長を支えてきたことは事実ですが、そろそろ限界が近づいているように感じます。
日本中の大学生が、同じ時期に、同じ服装(いわゆるリクルートスーツ)で就職活動し、同じ時期に内定し、同じ時期に入社するという、 固定的なシステムを見直す段階にきているのではないでしょうか。
時代に合わなくなった「就活ルール」を守る・守らないといったレベルの議論ではなく、日本の良さを活かしつつ、グローバル時代に相応しいフレキシブルな採用システムを日本全体で議論することが必要です。
北原 敬之
Hiroshi Kitahara
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。