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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色

2017.11.13

【ベトナムビジネスで見た景色(35)】ベトナムAPEC首脳会議

小川 達大

 2017年11月10日11日に、ベトナム中部のダナンでAPEC(Asia Pacific Economic Cooperation)首脳会議が開催されました。

 なお、日本ではあまり報道されていませんが、ベトナムに首脳や関係閣僚が集まる数日前、ベトナム中部には大型の台風が上陸していました。死者・行方不明者が100人を超えるという大きな被害がでております。

 さて、外務省のウェブサイトによると、「デジタル時代における革新的な成長、包摂性および持続可能な雇用」と「地域の貿易、投資及び連結性のための新たな原動力」という大きく2つのテーマについて、各国の首脳が議論したということです。世界経済において保護主義が強まっているタイミングで、「あらゆる不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘う」と明記された首脳宣言が採択されました。

 今回のAPEC首脳会議関連での大きなトピックの1つは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)です。アメリカがトランプ大統領の就任直後に離脱を表明したことによって交渉が止まっていたわけですが、アメリカを除く残りの国々での推進に向けて議論が進められてきました。「TPP11」と呼ばれています。アメリカを含む12か国で合意したTPPの協定書は、なんと8,000ページを超えるそうで、その中で、アメリカを除く11か国で合意できる内容について議論した、ということになります。

 日本(政府)にとってTPPは、中国への対抗という側面が大きくあります。中国を除く大きな自由貿易圏を作る、という意味においてもそうですし、TPPが「質の高い」貿易協定である、という点も重要な点です。中国が大きな影響力を持っているRCEP(東アジア地域包括経済連携)が「物品・サービス貿易および投資の自由化」に焦点を絞っているのに対して、TPPは「投資・競争・知的財産・政府調達に関するルール」や「環境や労働の領域でのルールづくり」も対象に含んでいることが象徴的です。

 一般的に、ある国が経済発展し、途上国から中進国、そして先進国となっていくと、その国の透明性が高く・公正なビジネス環境が整ってくるもの、というふうに想定されていました。経済水準が低い段階では、政府や国営企業、あるいは一部の財閥などが、権力と資金を総動員しながら、大胆に発展を推進していくことが必要でしょう。(先進国から見れば、その様子は、「不透明」で「時代遅れ」に見えるかもしれませんが…)一方で、経済発展が進んでくると、公正な競争によってもたらされるイノベーションが発展の推進力になるでしょう。そうだとすると、政府としては、公正なビジネス環境を実現するルールの整備を進めていかなければなりません。

 ところが、近年のアジア諸国の経済発展の様子を見ると、必ずしも、その「一般論」が当てはまるわけではなさそうです。そして、その状況の代表例が中国です。中国は経済成長を続け今や経済大国であることを認めざるを得ない状況ですが、中国国内のビジネス環境が透明性が高く・公正なものになる、という気配が一向にありません。むしろ、不公正さが増しているような気さえします。そして、RCEPや一帯一路によって、中国が主導する経済圏が世界中に広がっています。つまり、TPPとRCEPに象徴されるものは、経済圏構築競争という側面だけでなく、経済に関する根本的な思想、「経済『観』」のようなものの対立という側面もある、という見方ができるでしょう。

 今回のAPEC閣僚会議、日本はベトナムとともに共同議長国を務めました。各国が(当然のことながら)自国の利益を主張し、合意点がなかなか見いだせない状況で、日本が各国代表と粘り強い調整をした結果、大筋合意に至りました。

 このコラムの中心にあるベトナムについても、ビジネス環境の整備が、TPP発効の後押しを受けて進んでいくでしょう。例えば、まだ結論が出ていない項目ではありますが、国有企業の優遇策の制限。外国企業にとって、公式&非公式の国有企業優遇策は、不公正なビジネス環境を構成します。これが緩和されてくると、日本を含む外国企業にとって、更なるビジネス機会が広がってくるでしょう。

それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE

経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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