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2019.08.26
小川 達大
米中貿易摩擦が熱を増しています。Trade Warという言い方もされていますが、それは、「貿易版の戦争のようなもの」ということというよりは、「現代における戦争の舞台が貿易である」ということを意味しているようにさえ思わせます。価値の源泉が、モノから知恵や情報へと移っていく現代においては、モノを奪い合うことの合理性は相対的に小さくなり、知恵や情報の奪い合いの意義が大きくなっているのかもしれません。摩擦熱が高くなり過ぎると、火が出て、その物質が燃え尽きてしまうように、この貿易摩擦の向かう先・行きつく先は、なかなか予想がつくものではありません。
そういった状況のなかで、ベトナムへの生産拠点の移管が進んでいます。統計情報からの分析は、JETROの「米中貿易摩擦はASEANにどのような影響を与えているか」に詳しく整理されています。
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/c12468be2bfe4f09.html
【ハイライト】
・米国の2019年第1四半期の輸入について、中国からの輸入が減少し、代わって、韓国・インド・ASEANからの輸入が増加
・ASEANのなかでは、ベトナムの寄与度が8割超
・中国から、ベトナムへの投資が増加
米中貿易摩擦の影響で、世界の貿易におけるASEANあるいはベトナムの存在感が高まり、中国からの生産拠点移管も進んでいる状況が見て取れます。
まだ統計に表れていないレベルでも、中国企業が素早い意思決定で、工業団地の敷地を押さえたり、サプライヤーと大型契約をしたり、ということを聞きます。ベトナムへの生産拠点の移管の動きは、しばらく続きそうです。
政治的な要因で関税率が大幅に変わるというのは、企業にとってみれば、自社ではコントロールできない要因で、自社製品のコスト競争力が大きく変わってしまうことを意味します。まさに乱気流の中で飛行機を操縦するようなものです。こういった状況では、無駄を削ぎ落しすぎて、急な環境変化への対応力が下がり過ぎることは、大きなリスクになるはずです。グローバルでの生産能力や生産状況に関する情報を集約しながら、機動的に意思決定ができる体制を普段から用意しておくことが重要になると考えます。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa