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2018.01.09
小川 達大
私はベトナム企業にもコンサルティングしているのですが、やはり日本企業で見る景色とは違うものがあります。特徴的なのが人材の流動性です。現場の社員も、管理職も、よく入れ替わります。
そうなってくると、組織改革に対する考え方も変わってきます。「まず組織構造(ハコの形)を考えたうえで、そこにフィットする人材を配置する。社内に適任が居なければ外部から採用しよう」という発想をするのと、「いま社内にいる人材を前提にして、実現可能な組織構造を考えよう」という発想をするのとでは、結論は明らかに異なります。どちらが優れたアプローチか、一概に言うことはできないでしょうし、2つのアプローチは排他的なものでもないでしょう。私が現在コンサルティングしているベトナム企業は、前者の発想が強いように感じます。
社外から人材を登用すると、特に管理職をヘッドハンティングした場合には、社外から経営や業務に関する知識が導入されることになります。中堅ベトナム企業に、アメリカ系多国籍企業や大手ベトナム企業での経験を積んだ人材が入社することによって、経営や業務が進化するようなことがあります。例えば、これまで勘と経験とドンブリ勘定でやっていた営業活動を、KPI管理とインセンティブ設計と科学的分析による営業活動に変えていくようなことが起こります。もちろん、もともと社内にいた営業マンの活動を一朝一夕に変えることは出来ないですし、営業方法を変えることによって離れてしまう顧客だっているかもしれません。ですので、外資系や大手企業でやっているやり方が、中堅企業が採るべき戦略であるのかどうか、充分に吟味しなければなりません。しかし、いずれにせよ、新しい人材(特に、管理職)を外部から登用する、というのは、そういう側面があります。
ベトナムや他の東南アジア諸国では、外資企業や大手現地企業を渡り歩き、中堅企業の要職に就いて改革を推進している人に、ときどき出会います。ただ、そういう人たちの経歴のなかに、日本企業が入っていることは、個人的な経験としては、今までありませんでした。韓国企業での経験がある人は、たまにいますね。おそらく、日本企業に入社すると、要職に就くまで時間がかかりますし、多くの場合には日本語力を活かして昇進しているケースも多いですので、日本企業での経験を活かして他の国籍の企業の要職に転職することが少ないのかもしれません。逆に、一部の大企業を除いて、日本企業の現地法人の要職に、多国籍企業や現地大手企業の要職を渡り歩いた人材が就いているケースも少ないように感じます。他社からヘッドハンティングするとすると報酬テーブルがマッチしない、ような事情もあるのかもしれません。
統計などが手元にあるわけではないのですが、ここまで記載してきたことが事実だとすると、人材(特に、管理職)が動くことによって経営に関する発想や知識も移転されているという環境のなかで、日本企業だけは、そのネットワークから取り残されているのかもしれません。もちろん、日本企業は、日本で培ったノウハウを活かして、ベトナム現地でも各社独自の経営の発想や知識を蓄積・進化させていっている、という言い方もできるかもしれません。しかし、経営の現地化を進めていくためには、人材と知識を外部から登用する(≒買う)という発想も持ち合わせることが必要ではないでしょうか。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit