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2018.03.19
小川 達大
ベトナムは変化の激しい場所ですから、少し前のモノの観方(市場や労働者などに対する理解の仕方)が、時代遅れになってしまうというのは、よくあることです。間違ったモノの観方に基づいた意思決定は、もちろん間違ったものになりやすいわけですから、モノの観方を遂次アップデートすることは、成功の第1条件です。
例えば、流通網。一般消費者向けの事業であれば、大きくは、モダントレード(MT)とトラディショナルトレード(TT)という風に分けて捉えます。MTはショッピングセンターやコンビニのような近代的な売り場のことで、TTは市場(いちば)や古くからの個人商店のような伝統的な売り場のことです。売り場によって、客層も違えば、小売店側の意向や商習慣も違っています。リベートや販売協力など、コスト構造に大きく異なります。それゆえ、どういう消費者層に、どういう商品を売るかによって、どちらのチャネルを選ぶのか、を検討しなければなりません。さらに、選択したチャネルに合わせて、自社の営業体制や、代理店との関係を設計していく必要があります。
…というのが、一昔前の流通網の捉え方。
今は、それだけでは、充分ではありません。
携帯電話の売り場を例にします。5年ほど前は、ショッピングセンターの電機コーナーも、家電量販店も、携帯電話専門店(チェーン)も、個人商店も、高価格のスマートフォンから低価格のフィーチャーフォン(ガラケー)まで、一通りの商品が陳列されていました。チャネルによる取扱いの違いは、ほとんどありませんでした。
それが今は、ショッピングセンターと家電量販店では中~高価格のスマートフォンのみの取り扱いになっています。一方で専門店では、引き続き、スマートフォンもあればガラケーもあります。あるいは、同じ専門店でも、店舗の場所によって、取り扱っている商品の価格帯が違っています。
似たようなことは、化粧品の売り場でも起こっています。同じショッピングセンターでも、来店する客層に合わせて、取り扱っているブランドや商品が違っています。
国の経済水準が上がっていくと、いわゆるMTのなかで多様化が進みます。高級ショッピングモールが増えたり、若者向けのショッピングビルが誕生したりします。所得層や年齢といった客層の違いに合わせて、それぞれの売り場で扱っている商品も変わってきます。中国でも、タイでも、インドネシアでも、MTの多様化が進んでいます。
日本でも銀座の百貨店と郊外のショッピングセンターでは取扱い商品が違っている、というのは、当たり前のことです。ところが、ベトナム市場を観るときには、MTとTTの違いやTTの「新興国/途上国らしさ」が、どうしても印象に残ってしまい、ダイナミックに起こっているMTの多様化を見落としてしまうことがあります。
できるだけ先入観のない目で市場を見つめ、機会や脅威を見逃さないことが大切です。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit