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2019.03.04
小川 達大
日本企業のアジア展開の支援を続けていて、ずっと考えていることに1つは、
「アジア展開に成功する日本企業と失敗する日本企業の違いは、どこにあるのだろう」
ということです。もちろん、個別の事情や、運や縁、など、様々な要因が複雑に影響しているので、一言で説明することなどできないわけですが、共通するエッセンスのようなものが、どこかにないだろうか、と考えるわけです。
今回は、そういった考えていることの1つを、(まだ、十分には整理しきれていないのですが…)議論してみたいと思います。
アジア展開(海外展開、と言い換えても良いのかもしれません)における難しさとは、
「現地環境への適応と、本社(orグループ全体)のチカラの発揮を、どうバランスするか」
という、一見すると矛盾しているような要請を、創造的に解消しなければならない、というところにあると思います。
「現地の状況に合わせて機敏に活動する必要がある。しかし、現地に任せっきりでは、現地法人が孤立するだけで、本社側にある経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、ブランド、ネットワークなど)を活かすことができない。でも、本社の口出しが多すぎると、現地の状況に合わせて機敏に活動できない…」というのは、日本企業のアジア展開の現場で起こっている悩ましい問題です。
この悩ましい問題は、国際経営に関する理論でも、古くから議論されてきたテーマではあります。”グローバルな統合(グローバルで同じようにしていく/共有していく)”と”ローカル適応(現地の状況に合わせる/各国個別にする)”の程度を、どのように設計するか、ということです。極めて本質的で示唆深い枠組みだと思う一方で、企業を観察・分析対象として学問的に捉えているような気がして、実際の経営上の意思決定とは、少し距離があるというような気もしています。
あるいは、アジア展開の現場では、”現地化の程度”の話として議論とされているところもあります。経営上のパワー・権限をどの程度、本社が握るか/現地法人に渡すか、ということであったり、現地法人の幹部ポストを本社から派遣した社員が担うか/現地で採用した社員が担うか、というようなことあったりします。ただ果たして、本社と現地法人の「綱引き」だけの議論だけかというと、そういうわけでもないと思います。
ここでは、「本社の海外事業に対する形式的/非形式的なコミットメントの程度」と「現地法人に対する権限委譲の程度」という2つの要素で考えてみたいと思います。それぞれの要素は、下記のような項目によって、構成されているとします。
「本社の海外事業に対する形式的/非形式的なコミットメントの程度」
・本社の社長が、海外事業に投資して成長させる意思を、どの程度持っているか
・本社の社長が、日本事業と海外事業が、「違った性質」「違った時間軸」の事業だと捉えているか
・上記の社長の認識が、どの程度、他の経営幹部と共有されているか
・そういった認識が、組織図に反映されているか
(例:海外事業が、国内営業部の下に所属していないか など)
・公式/非公式な「昇進の道」として、海外事業も位置付けられているか など
「現地法人に対する権限委譲の程度」
権限の委譲を、権限の「範囲(何について、決めることができるか)」「大きさ(執行できる金額など)」に分けるとした場合に、
・現地法人の社長が、どの範囲まで、本社の承認を経ずに意思決定できるか
・現地法人の社長が、どの大きさまで、本社の承認を経ずに意思決定できるか
・現地法人の活動は、経営数値のみで評価されているか など
これらの2つの要素を2軸にすると、下記のような「結末」になる可能性が高いように考えています。もちろん、冒頭に記載したとおり、個別の事情や、運や縁の影響もとても大きいわけですが。
貴社のアジア事業の状況に当てはめてみると、いかがでしょうか?
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa