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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2017.11.27

【グローバル人事管理の眼と心(34)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その3)~制度設計を検討する際の基本的な視点~

定森 幸生

 企業の報酬管理制度を設計する際に最も大切なことは、①その制度が、企業の事業戦略の実行や業績目標の達成を確かなものにするため、社員のモチベーションと組織全体の求心力を高めるインパクトがあることと、②その企業固有の経営理念と経営環境(労働市場や業界の特性、社会的・法的要請など)に合致した制度運用が可能であることです。

 グローバル市場で事業運営を展開する日本企業のホスト国の拠点での報酬管理制度については、基本的には日本本社の報酬管理制度の設計コンセプトとは変わりありません。しかし、ホスト国固有の文化的特性や職業倫理観などによって、ホスト国社員の報酬に関する経済的、社会的、心理的満足度が、日本での実情に比べてどの程度左右されるかの検証は必要になります。

 端的な例を挙げれば、ホスト国によっては、管理職層の金銭報酬が十分に高額である場合、さらに高額の金銭的インセンティヴ(incentive bonus)を支給するよりも、管理職の社会的ステータスを象徴する社有車貸与などの特典(executive perquisites: 通常executive perksと略されます)のほうが歓迎されることがあります。ホスト国の税法上、そのほうが個人所得税法上のメリットが期待できる場合もあります。

 一般に、報酬管理制度の設計にあたり、下記のような基本的な視点に立って、自社の業種、事業戦略、経営理念、経営環境に最も適した設計方針を決めることが必要です。グローバルな事業展開をしている企業の場合は、特にホスト国の労働市場の動向や、外国企業に対する社会全体の受け止め方についての正しく認識することが大切です。

1.「社内的公正」か「社外的公正」
 社内で同一の職務内容または類似の職責を期待されている他の社員との比較において、報酬水準の公正さ(著しい給与格差が存在しない仕組み)を確保するのか? または、個々の職務に関する労働市場での人材の需給関係によって決まる報酬水準を、公正な市場相場(fair market rate)として社内の報酬水準として採用するのか?

2.固定給と変動給
 事業年度ごとに決められた毎月の一定金額を、「基本給」などの名目で固定的に支給するのか? または、個々の社員の前年度の業績を反映した「個人業績給(成果給)」や所属部署の業績を反映した「組織業績給」を加算して支給するのか?

3.業績と社員区分
 報酬水準を、個々の社員の業績達成度や所属部署の会社業績への貢献度に重点をおいて決めるのか? それとも、各個人の社内の従業員区分(社内の格付け)に応じて決めるのか?

4.職務給と能力給
 報酬水準を、個々の社員の職務が会社にとってどれだけ重要であるかに応じて決めるのか? それとも、個々の社員の知識・技能・経験・行動パターンなど(いわゆるコンピテンシー)を重点的に評価して決めるのか?

5.平等主義と少数精鋭主義
 役員を除き基本的に全社員を対象に同一報酬体系(基本給、業績給、能力給などの支給項目)を平等に適用するのか? それとも、個々の社員の社内の従業員区分や選別された特定の社員グループを対象に、異なる報酬体系(非金銭的特典などを含め)を適用するのか?

6.給与相場以下と給与相場以上
 社内の報酬水準を決める際、労働市場の賃金相場を下回る水準を社内の報酬水準として採用するのか? それとも、賃金相場を上回る水準を社内の報酬水準として採用するのか?

7.金銭報酬と非金銭的報酬
 報酬体系の中で、基本給、業績給、能力給、ストック・オプションなどの金銭報酬を中心に社員のモチベーションを維持・向上させるのか? それとも、仕事に対する社員の満足度や達成感を高めることや、雇用の安定を確保することによって、モチベーションを高めるのか?

8.公開と非公開
 個々の社員に対する報酬水準や支給実態を、一定の目的や条件のもとで開示するのか? それとも、積極的に非公開(秘密扱い)とするのか?

9.集中管理と分権管理
 報酬制度の設計・変更・運用を、本社人事機能(corporate HR) のような組織で集中管理するのか? それとも、支店や事業部署などの組織を統括する責任者に権限を委譲するのか?

 これらの視点は、必ずしも二項対立的な決定基準ではなく、多くの企業での運用実態は、両者のメリット、ディメリットを考慮して決められます。
次回以降、上記の視点について詳細に説明します。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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