グローバル HR ソリューションサイト
by Link and Motivation Group

グループサイト

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大
  • お問い合わせ
  • TEL:03-6867-0071
  • JAPANESE
  • ENGLISH

COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2019.04.22

【グローバル人事管理の眼と心(44)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その13)~9つの視点の有効活用~

定森 幸生

 これまで、第35回から第43回の9回に亘って、企業の報酬管理制度を設計する場合に考慮すべき次の9つの重要な視点について、様々な局面に即して説明してきました。

1.「社内的公正」と「社外的公正」
2.「固定給」と「変動給」
3.「業績」と「社員区分」
4.「職務給」と「能力給」
5.「平等主義」と「少数精鋭主義」
6.「給与相場以下」と「給与相場以上」
7.「金銭報酬」と「非金銭的報酬」
8.「公開」と「非公開」
9.「集中管理」と「分権管理」

 それぞれの視点については、一方が他方より常に優れているとか好ましいという二項対立的な判断基準ではありません。したがって、自社が現在抱えている人事管理戦略上の問題点や中長期的な経営課題を克服するために不可欠な人材を確保・育成・登用するために、それずれの視点の本質的な意味合いを把握したうえで、どの視点を優先すべきかを判断して具体的な制度や諸施策を作り上げることが大切です。

 同一の会社組織の中でも、例えば、「職務給」の基本コンセプトと「能力給」の基本コンセプトを分析したうえで、両方のメリットを享受できるような給与制度を設計する場合もあります。現在の主要業務に従事する人材を確保し登用する短期的なニーズを満たす一方、中長期的にはその業務自体の陳腐化リスクに対応し、現在その業務に携わっている社員の職務能力の高度化や、将来の高度活用を念頭に置いた新たな技能の習得を加速化するニーズを満たそうとする場合などがその好例です。

 もちろん、これら9つの視点全てに基づいて、常に自社の現行の報酬管理制度を見直す必要がある訳ではありません。日本国内で優れた事業運営の実績を挙げ続けている企業であれば、従来の主要な事業ドメインの大幅な見直しをするなど、経営環境や人材獲得戦略に著しい変更が生じた場合を除いては、報酬管理制度の見直しの優先度は低いかもしれません。

 しかし、海外各国に進出(直接投資)し、ホスト国の拠点で事業を展開する企業であれば、事業拠点の立ち上げ時期はもちろんのこと、事業拠点の設立後も頻繁に報酬管理制度の有効性や妥当性を定期的に検証することは、グローバルな経営戦略の観点から大変有意義なことです。国ごとの政治・経済・社会環境の変化は、企業経営に大きなインパクトを与えますが、中でも労働市場の動向に与える影響は企業の人事管理戦略全般を左右する要因となるからです。

 特に、様々なホスト国に進出する外国企業にとっては、報酬管理制度の運用において、ホスト国の労働市場の要請には現地企業以上に敏感かつタイムリーに対応する必要があります。その意味で、上に掲げた9つの視点を有効に活用して、グローバル事業の各拠点における報酬管理制度の効率的な運用を担保することは、ますます重要になります。
 
 会社が報酬管理制度の有効性や妥当性を検証する場合、様々な理由やきっかけが考えられますが、人事担当部署やライン管理職が日頃から意識しておくべき代表的な検証項目として、次の5つを挙げておきます。

1.自社の現在の主要な業務領域について、各国の労働市場で競争優位性の高い人材を必要に応じて迅速に確保できているか。市場での競争優位性の根幹をなすものとして、報酬管理制度の果たす役割はどの程度大きいのか。「報酬の仕組み水準」を補完する競争優位性の要素にはどのようなものがあるか。

2.競争優位性の観点から判断して、自社の現行の報酬管理制度の弱点や明らかに改善すべき欠陥はないか。もしあるとすれば、それらを改善したり是正するために、具体的にはどのような視点に立った制度の検証が必要なのか。

3.自社の各部署において、管理職は部下に対して会社の報酬管理制度を公正に運用しているか。もし不備があるとすれば、報酬管理制度の設計に問題はないのか。

4.自社の報酬管理に関する経営理念や制度の達成目標に照らして、管理職の制度運用上の認識に齟齬はないか。もしあるとすれば、それらの齟齬が生じる制度上の仕組みを特定できるか。また、問題解決のため、それらの仕組みを修正または変更するためには、どのような視点からの検証が必要なのか。

5.自社の各部署において、管理職は部下に対して会社の報酬管理制度の基本理念や目的を正しく理解させ納得性を高めるため効果的なコミュニケーションを図っているか。制度についての管理職の認識に問題がなくても、部下の理解と納得を得るのが困難な場合、制度を手直しする必要はないのか。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

このコラムニストの記事一覧に戻る

コラムトップに戻る