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COLUMN コラム

チャオプラヤー川に吹く風

2017.05.29

【チャオプラヤー川に吹く風(50)】タイ人のコミュニケーションスタイル その5~「ほめ上手」&「おせっかい」

齋藤 志緒理

バンコク市内 BTSパヤタイ駅付近を走るエアコン付きバス(2013年10月 筆者撮影)

 タイ人のコミュニケーションスタイルについて取り上げている本シリーズ。過去4回で「高コンテクスト」「ホンネとタテマエ」「マイペンライ」「タイ人の微笑み」について解説しました。今号では、タイ人の「ほめ上手」で「おせっかい」な傾向を取り上げます。(タイ人全てに共通するわけではないことを、念のため、冒頭で申し添えておきます。)

●「パークワーン」な人

 「パークワーン」は直訳すると「口が甘い」で、「ほめるのが上手」という意味です。

 バンコク・トンブリ地区で乗車したエアコンなしバスの車内。(2013年10月 筆者撮影)

 タイ人の中には、他者をほめるのが好きな人がいます。一般的に、友人と会った時などに「きれいね」「服がとっても似合っている」などと容姿をほめることが多いです。(我々日本人も、他者をほめますが、タイ社会ではその頻度が高いように感じます。日本人は「空々しいほめ言葉はかえって不誠実」という意識が働き、ほめたい気持ちがあっても、うまく言葉にできないのかもしれません。)

 タイ人の「パークワーン」には「誠心誠意ほめているケース」と「うわべのほめ言葉」の両方あるようです。言われた方は、相手の言葉に誠意を感じたら、感謝して受け止めるもよし。「お世辞かな?」と思ったり、照れくさく感じた時は、「まったく“パークワーン”なんだから!」と笑って返したりします。そう返された側が「“パークワーン”なんかじゃないわ。ホントよ」と答えるやり取りもよく聞かれます。

●他人のことをあれこれ言う人

 一方で、(「パークワーン」とは反対に)他人のことをあれこれ指摘したり、忠告したりするのが好きな人もいます。その際、よく口の端に上るのも、(ほめる時と同様)容姿やおしゃれ、そして「太った」「やせた」などの外見についてです。

 女性が相手ならば、「髪型を変えた方がよいのでは?」「別の色(あるいはスタイル)の服の方が似合うわよ」「あなたは、口紅はピンク系を使うべきだわ」「眉毛は薄い色で描く方がきれいよ」など。

 相手が男性ならば「ズボンの型」「シャツは長袖がいいか半袖がいいか」などのファッションに加え、「もっと体重を減らした方がいい」などといった忠告をしたがります。

 このように他人のことをあれこれ言う人は、たいてい「あなたのためによかれと思って」というスタンスでいます。言われた側が素直に忠告を受け止められれば問題はありませんが、「余計なお世話」「おせっかい」と感じても「私は善意で言っている」と思いこんでいる相手には通じないので、なかなか厄介です。

 「パークワーン」(=ほめること)と「おせっかい」(=忠告すること)は、相反する行動ですが、「行き過ぎたお世辞」も「おせっかいな忠告」も、タイ人にとって共に、イライラの原因になる点では共通しています。

●プライバシー尊重の意識

 「おせっかい」な傾向の背景には、タイ社会でまだ「プライバシー」への理解が十分浸透しておらず、他人の空間、時間、人格を尊重する意識が薄い――という実情があります。

 もっとも、「プライバシー」尊重の意識の薄さは、悪いことばかりではなく、プラスに作用することもあります。他者に働きかけることにためらいがないので、困っている人を見たら、本人が助けを求めなくても、自然に手を差し伸べるのです。

 タイでは、公共バスで、お年寄りだけでなく、(老齢でない)女性や子供にも席を譲る光景がよく見られます。バンコクのバスは、決して乗客の安全第一で運行されているとはいえません。ドアを開けたまま走るバスもありますし、停留所で最後に乗り込んだ人の足が地面から離れ、乗降口内の手すりをつかんだ途端に(ドアを閉める間もなく)走り出すこともあります。そのため、乗客間で女性や子供を守ろうという意識が働くのではないかと思います。

 バスで、座っている乗客が(見ず知らずの)立っている乗客の荷物を持って上げるのも日常茶飯事です。筆者も留学時代、本がいっぱい入った重い鞄を持って乗車した時など、目の前に座っている人がすっと手を伸ばして鞄を引きとり、膝の上に載せてくれた経験を何度もしました。

 旅行者が地図を手に、困った様子でキョロキョロしていたら、「大丈夫ですか?」「どこに行きたいのですか?」などと声をかけることもよくあります。

 つまり、「おせっかい」が実際に人助けになる場面も多々あるわけです。こうした土壌の上に、多くのタイ人は、「その人のためにいいことをしている」という信念から、周囲の人に関わることを恐れず、あれこれ忠告するのでしょう。

 「おせっかい」の受け止め方は、タイ社会でも年代によって異なり、若年世代と中高年世代の間にコミュニケーション・ギャップが生まれています。十代の若者では忠告を「批判」と感じ、言われて嫌な気分になる人も増えている中、30歳~40歳代から上の世代は、「あなたのためを思って」式に他者に言葉をかけること、かけられることにさほど抵抗感がないようです。

 考えてみますと、筆者も20代半ばだった留学生当時、周囲のタイ人にいろいろなことを言われました。少しあらたまった席で着る時のため、日本からワンピースを何着か持っていったのですが、寮のルームメイト曰く「子ども服みたいなデザインね。大人の女性は上下分かれたツーピースを着るものよ。」伸びた髪を三つ編みにしていたら、友人のお母さんに「その髪型は子どもっぽいからやめなさい」と言われてやめたこともありました。その時の気持ちを振り返ると、決して「干渉されている」とは感じず、「タイではそういうものなのだな」と・・・むしろ、率直に言ってもらってよかったと思ったものでした。

 つまるところ、「ほめる」のも「忠告する」のも、言う側に誠意が、そして互いの間に信頼関係がなければ、言われた側にとって、前者は「うわべのお世辞」に、後者は「余計なお世話」になってしまうということでしょう。相手の「あなたのためを思って」の意を素直に酌めれば、「おせっかい」も温かいものと感じられるのではないかと思います。

齋藤 志緒理

Shiori Saito

PROFILE

津田塾大学 学芸学部 国際関係学科卒。公益財団法人 国際文化会館 企画部を経て、1992年5月~1996年8月 タイ国チュラロンコン大学文学部に留学(タイ・スタディーズ専攻修士号取得)。1997年3月~2013年6月、株式会社インテック・ジャパン(2013年4月、株式会社リンクグローバルソリューションに改称)に勤務。在職中は、海外赴任前研修のプログラム・コーディネーター、タイ語講師を務めたほか、同社WEBサイトの連載記事やメールマガジンの執筆・編集に従事。著書に『海外生活の達人たち-世界40か国の人と暮らし』(国書刊行会)、『WIN-WIN交渉術!-ユーモア英会話でピンチをチャンスに』(ガレス・モンティースとの共著:清流出版)がある。

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