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2018.02.26
宍戸 徳雄
前回のコラムより、およそ1世紀以上ぶりに改正されたミャンマー新会社法の変更部分について解説をしています。
今回解説をするのは、会社の機関設計に関わる変更点です。
まず、取締役について、旧法では、国籍要件やミャンマー居住要件などはありませんでした。つまり、ミャンマーに居住していない外国人であっても、取締役に就任することが可能でした。この点、改正法では、取締役1名のミャンマー居住者要件が明記されました。この変更は実務上大きな変更点と言えるでしょう。
居住者要件を充足するには、年間183日はミャンマーに居住していなければなりません。これは、国籍要件ではありませんので、あくまで居住日数を充足していれば、外国人でも居住者要件を満たしますから、現地で183日以上、ビジネスを行っている外国人であれば問題なくクリアできる要件でしょう。
なお、取締役の員数については、旧法では、明文規定はないものの、実務運用上、非公開会社においては2名以上の取締役が必要とされていましたが、改正法では、1名の取締役で会社の設立が可能となりました(非公開会社)。公開会社においては、最低3名の取締役を選任して、内1名の取締役に対して居住者要件が付きました。
したがって、非公開会社においては、1名の取締役での会社設立は可能になったものの、取締役1名の居住者要件が新たに付加されたことから、これに対する手当が必要となりました。
なお、取締役会設置会社、取締役会非設置会社は、どちらも機関設計上可能です。ミャンマーで一般的な会社の機関設計は、非公開会社の取締役・取締役会設置会社の2パターンでしょう。
それから、株主について、旧法では、非公開会社の場合は2名以上、公開会社の場合は7名以上の株主が必要でした(旧ミャンマー会社法5条)。
改正会社法では、株主の員数要件が無くなり、株主1人による会社の設立が可能となりました。この変更により、既往まで株主構成の設計について、スキーム上、諸々の考慮が必要でしたが、そのあたりの考慮が不要となり、1人会社としての完全支配会社の実現が可能となりました。この変更は画期的な変更と言えるでしょう。外国企業による投資促進の観点からも、また投資スキームの簡便性の観点からも、この完全支配会社の実現が容易になったことは歓迎すべきと言えるでしょう。
以上、今回のコラムでは、改正法における会社の機関設計関連の主要な変更点について解説をしました。
次回のコラムでは、実務上も大きな変更点と言える営業許可制度(PTT)が廃止されたことについて解説したいと思います。
宍戸 徳雄
Norio Shishido
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。