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2018.05.28
宍戸 徳雄
第47回のコラムより複数回にわたり、1世紀以上ぶりに改正されたミャンマー新会社法の変更部分について解説をしています。
今回解説をするのは、最近問い合わせが増えている内容でもありますが、第47回のコラムで解説した改正ポイントである外国企業の定義規定の変更によって、ヤンゴン証券取引所における外国人の株式購入規制が緩和されるのか?という点について解説していきたいと思います。
既に解説した通り、今回の会社法の改正により、ミャンマーにおける「外国企業」の定義規定が変更となりました。改正前の旧会社法では、外国人又は外国法人が1株以上の株式を保有する会社は、「外国企業」と規定され、それ以外の会社は「ミャンマー内国企業」となるという分類でした。
旧会社法では(正確には、旧会社法をベースにした「外国企業」の定義を前提として運用されている様々な個別法では)、「外国企業」と「ミャンマー内国企業」との間に、様々な規制態様において区別をしていました。ヤンゴン証券取引所における株式の売買について、「外国人」による取引を認めていないのも、その規制態様の一例でした。
ここで今回の改正会社法では、「外国企業」の定義規定が変更され、外国人又は外国法人が35%を超える株式を保有する会社は、「外国企業」という内容に変更になったことにより、上述の証券取引所における外国人による株式売買規制が緩和され、外国人による株式売買が可能になるのか、が一つの論点になります。
改正法では、外国人または外国企業が、ミャンマー内国企業の株式を35%まで保有した場合でも、あくまで「ミャンマー内国企業」として分類され、会社法が外国企業あてに規制する様々な規制態様は適用を免れることができるわけですから、今回の改正により、事実上、証券取引所における株式の売買においても、当該銘柄の35%までは、外国人であっても取引が可能という解釈が成り立ちそうです。
この点につき、ミャンマー政府、ならびにヤンゴン証券取引所においては、上記のような改正法の解釈を前提として、外国人による証券取引所における株式の売買を認める方向で具体的なルールの策定準備に入っているようです。2018年度中にもその実現を目指していると言われており、これが実現すれば、現状、取引量が低迷しているヤンゴンの証券市場の活性化が期待されます。証券市場に外国人が参入することにより、35%とは言え、市場全体の取引量は増えるでしょうし、ミャンマーの上場株式の取引が活発になることによって、ミャンマー経済およびヤンゴン証券取引市場への注目度も増します。加えて、ミャンマー企業による証券市場での資金調達も増えていくでしょう。今回の事実上の外国人の証券市場参入規制の緩和による株価の上昇期待も、上場企業および投資家にとっても大きいものと思われます。
実務上は、外国人による取引対象となる株式については、「外国株」などの分類で取引区分を分けたりする可能性はありますが、いずれにせよ、市場参加者が増えること自体は、マイナス要素は見当たらず、一日も早い具体的なルールの完成が待たれています。
現状のヤンゴン証券取引所に上場しているのは5社。2018年度中には9社程度まで上場株が増える見込み。日本政府のバックアップも得ながら、2015年に、大和総研と日本証券取引所グループが運営主体となり支援を行ってきたヤンゴン証券取引所ですが、既往までの市場低迷の流れを、今回の外国人開放をきっかけに大きく変えることができるか、注目されます。
宍戸 徳雄
Norio Shishido
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。