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2018.07.23
宍戸 徳雄
2018年7月、この国民生活白書は2017年度版として、2016年12月から2017年12月までの調査を経て発表された。
ミャンマーは民政移管、そして2015年の総選挙を経て政権は変わったものの、民主化をベースに国民生活のあらゆる部面の厚生を向上させるために改革が進められてきた路線はここ5年間変わりはない。
今回の白書では、2016年以降の国民生活の発展についての分析がなされており、特に、2016年、2017年の2年間での生活向上が特に顕著であったというのが総論としての結論である。その結論は、肌感覚としては、おおむね間違いはないが、あくまで都市部における肌感覚として感じられるものではないかと思う。
例えば、電化率がこの2年間でミャンマー全土で8%向上したとの分析がある(34%→42%)。どのような統計手法に基づいて数字を出したかは不明であるが、国土の大半を占める農村部や山岳部では、依然として無電化村や無電化エリアも数多く残っており、全体で4割程度の電化率では、まだまだ国民の現代的な生活の最低限の基盤が出来上がったとは言えない状況であろう。この辺の感覚は、発展著しい都市部にいるとなかなか感じにくいが、ヤンゴンを離れて、一歩農村部に足を踏み入れれば、実際の生活上の問題として直視せざるを得ない問題であり、国家的な優先課題として、早期に電化率7割以上は目指すべきであろう。
都市部にいると、都市部の電力需要に対する電力供給量の確保をいかに行うのかの議論が多い。たしかに、外国企業からの投資を奨励し、産業を誘致する中、都市部における電力の確保が、マクロ経済部面において重要な課題であることは間違いないが、広く国民生活の向上の観点から言えば、特に地方の農村部も含めた全土にわたる早期の電化こそ、現代社会において不可欠の基盤になるものであり、政策の重点課題としてその成果とスピードが求められる。
2016年10月のアメリカによる経済制裁の全面解除以降、2017年の外国からの投資の許可件数は過去最高になった。外国からの投資が急増したことによる、都市部における大きな雇用の創出による国民所得の向上は目に見えて認められる。
外国からの投資の増加を背景として、ミャンマーの産業構造は大きく変わってきており、今世紀初頭6割程度あった第一次産業(特に、農業)の割合が、今や2割を下回るほどまで減少している。第一次産業に代わって、1割以下であった製造業が現在は4割を超えるまでになった。製造業が産業構造の中心を占める状況が出来つつある中、急増する電力需要を満たすための電力供給量の確保については、別途、国家のエネルギー政策の議論の中で、様々な手当を抜本的に考えていかなければならないだろう。水力発電依存型からの脱却や石炭火力発電の強化、環境問題を考慮した上で新エネルギーの創出、20%を超えると言われている配電ロス率を改善することなど、エネルギー政策の大枠の中で、検討すべき課題は引き続き山積みだ。
宍戸 徳雄
Norio Shishido
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。