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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2020.01.06

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(70) 『スーチー国家顧問、国際司法裁判所へ出廷』

宍戸 徳雄

国際法廷で答弁するスーチー国家顧問

 明けましておめでとうございます。

 2020年は、ミャンマーにとっての最大の関心事は、12月に行われる総選挙。2015年の総選挙において政権交代を実現した現NLDスーチー政権への評価が下される。

 国内政治情勢にも特に配慮しながら、国政運営を進めなければならないスーチー国家顧問は、2019年12月、ガンビア政府が国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴した西ラカイン州の民族問題に関わるジェノサイド条約(1948年)違反訴訟における審理公聴会に出廷。国際社会も注目する場において、スーチー国家顧問は一つの大きな試練と対峙した。

 ガンビアは、イスラム協力機構に属する国の一つ。ガンビアは、彼らが「ロヒンギャ」と呼ぶ西ラカイン州のイスラム教徒民族へのミャンマー国軍による迫害行為を、ミャンマー政府が止めようとせずに、それをむしろ肯定していると国際司法裁判所に提訴。迫害を止めるよう緊急措置を要求した。

 審理公聴会に出席したスーチー国家顧問は、逆に、ガンビア政府の提訴を棄却するように要求。この問題は、ミャンマーが法治国家である以上、ミャンマーの司法制度のもとで処理されるべき問題であり、このような訴え自体が国際社会へ誤解や不安を与えることになるし、今回の国際司法の判断が現在進行している西ラカイン州の難民帰還プロセスに悪影響を与え、少しずつとは言え醸成して来た国内の和解感情を壊す可能性があると懸念を表明した。また、武力衝突においてジェノサイドの意図があるはずもなかったと反論した。

 かつてノーベル平和賞も受賞し人権主義の象徴的な存在でもあったスーチー国家顧問が、このような国際司法裁判所の最終弁論の場で、自国の民族迫害に対する他国の訴えに対して答弁することなど、誰も予想しなかった光景だけに、世界中のメディアがその答弁の様子を報道した。

 ミャンマー国内では、この裁判の報道に対して、逆にSNSなどを通じて、「私たち国民は、スーチー国家顧問を支持しています」という標語を拡散。むしろ国内での支持率が低下傾向にあったスーチー政権に対して、国内世論に逆風が吹き、この時期、国民全体がスーチー応援団に大きく転換。国際法廷でミャンマーの代表として国家の姿勢を擁護し真摯に答弁をしたスーチー国家顧問の姿に、ミャンマー国民は心を打たれたようだ。

 国際司法裁判所の結論は、数ヶ月かかる見込みだが、ガンビア政府が訴えの中で、迫害行為の中止を求め緊急仮保全の措置を求めていることから、1ヶ月程度で、仮保全処置についての判断は下される見込みだ。

 今回の国際司法裁判所への自らの出廷で、国内世論を大きく味方につけたスーチー国家顧問だが、国際社会が注目するこの裁判の今後の行方いかんでは、12月の総選挙への影響も出てくることから、目が離せない状況が当面続きそうだ。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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