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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2020.02.03

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(71) 『国際司法裁判所から下された仮保全命令』

宍戸 徳雄

国際司法裁判所へ対峙するスーチー女史を支持する国民

 前回のコラムでは、2019年12月にガンビア政府が国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴した西ラカイン州の民族問題に関わるジェノサイド条約(1948年)違反訴訟について書きました。その公開審理法廷において答弁をしたスーチー国家顧問の毅然とした態度が、国内支持率を大きく上昇させる結果となりました。

 この裁判の最終的な判決が出るまでには、数か月から数年かかる見通しであるが、その前段として、ガンビア政府が、同時に提訴していた迫害行為の中止を求めた緊急仮保全の措置について、早速、2020年1月に判断が下されました。

 国際司法裁判所は、西ラカイン州の民族(訴状ではロヒンギャと称呼されている)は引き続き重大で深刻な危険にさらされた状態であり、この状態を速やかに改善させるために、ミャンマー政府はあらゆる迫害の防止措置を取り、また訴えの内容に関係する証拠の保全措置を講じるよう命じる判断をしました。ミャンマー政府は、この命令に対して、4カ月以内に、国際司法裁判所に対して、対応状況を報告しなければならない。

 この国際司法裁判所の決定は、最終的な訴えに対する結論ではないものの、一定程度のロヒンギャ迫害に対する事実とその差し迫った現在の危険の状態を、国際司法裁判所が認めたと評価できるだろう。

 ミャンマー政府としては、ガンビア政府の本訴に対しては、訴え自体の却下を求めていたが、今回の緊急保全措置命令の中で、一定の内容の判断が裁判所によりなされたことにより、今後、国際世論の逆風が強まることが予想される。実際に、国際的な人権団体などは、今回の緊急保全命令の結果を受け、その決定の内容を歓迎すると声明を発表した。

 今回の保全命令に先立ち、西ラカイン州の民族問題に関わる独立調査委員会(ミャンマー政府が設置)は、民族浄化(ジェノサイド)の意図があったとは認められないとの結論を記載した報告書を提出していたが、その結論と国際司法裁判所の今回の判断は、完全に結論が分かれることとなった。

 ミャンマー政府としては、今後4カ月以内に、具体的な迫害防止策の実施状況を報告しなければならないわけであるが、年末に実施される5年ぶりの国内総選挙の動向とも絡み、国内世論と国際世論の双方を意識しながら、スーチー国家顧問がどのような対応策を講じるのか、引き続き目が離せない状況が続く。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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