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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2017.08.14

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(41) 『米国、ミャンマーに対して北朝鮮との軍事的関係の解消を要請』

宍戸 徳雄

 アメリカのホワイトハウス報道官は先月17日、国務省の北朝鮮担当特別代表であるジョセフユンが、ミャンマーを訪問し、アウンサンスーチー国家顧問、ミンアウンライン国軍司令官と会談。北朝鮮との間の軍事的な協力関係を完全に解消するように要請したと発表した。今回のジョセフユン氏のアジア歴訪の最終訪問地がミャンマーとなった。

将軍の娘は、国際社会からの信頼を維持できるか

 ミャンマーは、かつて、アジア地域において、北朝鮮と同様、国際的に孤立していた時期に、同国との軍事的紐帯関係を深めてきた長い歴史がある。両国間における武器取引は活発に行われてきた。ミャンマーは、北朝鮮から武器の輸入を行っていた。

 ミャンマーが軍事政権から民政移管し、そして2016年、ついにアウンサンスーチー国家顧問率いるNLDが総選挙に圧勝し、華々しく国際社会に復帰した後も、米国は、過去、北朝鮮との軍事的取引に関与してきたミャンマーの政商や財閥などに対する経済制裁を解除することはなかった。現在は、米国のミャンマーに対する経済制裁の大部分はすでに解除されたが、麻薬取引や武器取引に関わる一部の制裁は残っている。

 アメリカ国務省のジョセフユン北朝鮮担当特別代表といえば、トランプ政権発足後、北朝鮮に対する日米韓3か国による緊密な連携関係の構築の下地造りに奔走してきた中心的人物だ。韓国の文在寅新政権が5月に発足し、北朝鮮との対話路線に転じるスタンスを示唆すると、圧力路線で連携していた日米と韓国との間に温度差が生じたが、ジョセフユン北朝鮮担当特別代表など米国関係者は、日米韓3か国間の連携強化を改めて確認するよう緊密化に動いた。これと併行して、トランプ政権は、日米韓に加え、中国の協力も不可欠として、北朝鮮への圧力路線での緊密な連携関係を、中国の習近平国家主席とも米中首脳会談において確認していた。

 今回、ジョセフユン米国国務省北朝鮮担当特別代表がミャンマーに乗り込み、アウンサンスーチー国家顧問とミンアウンライン国軍司令官と直接会談、北朝鮮との軍事的解消に向けて強い要請を行ったのは、中国に対する協力要請と合わせ、北朝鮮への圧力路線を徹底する米国の決意の表れであり、ミャンマーと北朝鮮との軍事的関係を完全に遮断しなければ、圧力路線に抜け穴が生じるとの米国政府の評価が背景にあろう。

 現在において、ミャンマーと北朝鮮との間に、どの程度の軍事的関係が残っているのかは、明らかな情報はない。ミャンマー政府は、民政移管前の2011年に既に北朝鮮との軍事的取引関係は終了していると主張している。今回のジョセフユン特別代表とアウンサンスーチー国家顧問、ミンアウンライン国軍司令官との会談においても、ミャンマー側は、北朝鮮との軍事的繋がりは終了しており、通常の友好関係にあるのみだとの回答を述べたとされている。また、国軍司令官は、朝鮮半島の非核化を望んでいると述べている。

 そのようなミャンマー側の反応に対して、多数のCIA要員をミャンマーに駐在させ長く情報収集にあたってきた米国としては、見逃すことのできない情報を持っているものと予測される。ミャンマーが北朝鮮からの武器やその他軍事関連物品の輸入を完全に停止し、北朝鮮への資金の流れを遮断することは、米国、中国、そして日本、韓国と連携して進めている圧力路線を徹する上で不可欠の要素だ。米国は、ミャンマーが今回の要請に応じなければ、新たな制裁を科すと警告している。

 ミャンマー関連の動きに対して、北朝鮮も敏感に反応を示している。北朝鮮外務省の報道官は、国連などがロヒンギャ問題を政治的に利用してミャンマーの内政に圧力をかけていると非難。北朝鮮は、このような動きに反対し、ミャンマーを支持すると述べている。

 ミャンマーは、ロヒンギャ問題、北朝鮮対応と、その舵取りを誤れば、国際社会からの信頼をいっきに失うことになる。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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