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2017.11.06
宍戸 徳雄
最近のミャンマー関連のニュースと言えば、もっぱらミャンマー北西部のラカイン州の難民問題がその中心だ。このコラムでも、国際社会から見た同問題という視点と、ミャンマー国内から見た視点との間に、大きな差があることも解説してきた。現状、この問題の解消の道筋が見えていないが、アウンサンスーチー国家顧問は、少しずつ解決に向けて動き出している。
先日、アウンサンスーチー国家顧問は、同地域(マウンドー)での軍事衝突後、初めて同地を訪れた。軍事衝突のあった跡地を視察し、支援を求めるイスラム系少数民族との対話を行った。高まる国際的な非難や、間近に迫ったティラーソン米国国務長官の来緬予定などを背景として、ミャンマー政府関係者も重い腰を上げた形だ。ミャンマー国内では、国際的な非難を浴びながらも同問題の解決に動き出しているアウンサンスーチー国家顧問に対する信頼の声が高まっている。今回の現地訪問が、解決へ向けての第一歩となることが期待されている。
さてラカイン州の問題ばかりが注目される中、先日のミャンマー連邦議会において、ひっそりと、ティンチョー大統領が、ミャンマーにおける会計年度の変更を提案し、現地では大きな話題になっている。
ミャンマーの会計年度は現在、4月1日~翌3月31日までとなっている。これを、10月1日~翌9月30日までに変更したいとの提案だ。既存のミャンマーの会計年度は、ほぼ半世紀にわたって続けられてきた制度であり、その期間の突然の変更に対して、早くも、野党USDPなどは反対の意向を示している。
現在、様々に議論されているのは、会計年度の変更が、建設業界や一部の業界への優遇措置に繋がるのではないかとの指摘だ。このような指摘に対して、チョーウィン財務大臣は、
一部業界を優遇するものではなく、他の様々な業界への好影響が見込まれるし、経済や雇用環境への効果も見込まれると反論している。実際、ミャンマーは農業国であり、10月から始まる会計年度の方が望ましいとの意見も以前よりあった。また、ミャンマー特有の雨季や乾季などの天候的な要素も、会計年度の変更にあたっては、実質的な事業の稼働期間を考えれば、考慮しなければならないとの指摘も多い。
基本的に、現在のNLD多数の議会構成から言えば、変更議案は議会を通るはずであるが、半世紀に亘って続いてきた会計年度を変更することの影響は大きく、ミャンマー国内特有の事情も考慮されながら、議会において慎重に議論を尽くした上で結論を導かれることが望まれよう。
宍戸 徳雄
Norio Shishido
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。