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2017.05.22
宍戸 徳雄
バチカンでのローマ法王との面談を終えたアウンサンスーチー国家顧問は、英国に向かった。かつて軍事政権による自宅軟禁から解かれ自由の身になって以降、今や国政の事実上のトップの立場になってからも最も頻繁に訪れているのが英国だ。スーチー政権発足後でアジア以外の国で最初に訪れた国も英国であった。国家顧問としての公式訪問も、日本よりも英国の方が早い。英緬関係は、貿易など経済関係では中国や日本には遠く及ばないが、英国とスーチー国家顧問との人的紐帯は以前と変わりなく、その蜜月関係は更に深化していると言える。
今回の訪問でも彼女は英国から特別待遇を受けた。
数年前、まだ野党の党首であったスーチー女史は、英国両議院において、ミャンマーにおける議会制民主主義の構築に向けた英国の支援を訴えた演説を行った。通常、英国両議院において演説の機会が与えられるのは国家元首級だけあり、野党の党首としての演説が認められることは極めて特例だ。さらに言えば、過去、英国上下両議院において演説が許された女性は、スーチー女史とエリザベス女王以外にはいない。この点においても言うまでもなく、特別待遇だ。
今回も、バッキンガム宮殿において、ウィリアム王子に出迎えられたスーチー国家顧問は、エリザベス女王との昼食会に臨んだ。その後、チャールズ皇太子夫妻との面会も行っている。
更に、今回、スーチー国家顧問は、ロンドンの名誉市民の称号を受けた。その授賞式には、かつて自宅軟禁中の彼女のノーベル平和賞授賞式に代理出席をした英国籍の息子の姿もあった。満面の笑みで名誉市民の称号を受けた彼女にとって英国は、大学時代から民主化運動に参加する1988年まで暮らし、自宅軟禁中に死別した亡き夫との思い出も深い第二の故郷とも言える存在であろう。今回受けたロンドンの名誉市民の称号は、Freedom of the City of Londonだ。
政権発足後ちょうど1年が経過したスーチー国家顧問。国政の舵取りが依然として不安定な中の外遊となったが、背景として、国際社会からの非難が高まるロヒンギャ問題について、英国やローマ法王との対話を通じて、ミャンマー政府としての立場の説明と国際社会への理解を求めるアピール的な姿勢は見て取れる。
英国は、彼女の精神的な支柱でもあり、過去数十年に亘り、彼女の民主化運動の後ろ盾となってきた存在だ。その英国に政権のスタンスを説明し一定の理解を得ることは、国際社会からの非難の集中砲火を浴びる彼女にとって、極めてプライオリティが高いと言える。
今回の訪英でも一定の成果を手にしたアウンサンスーチー国家顧問、帰国後は引き続き内政問題が山積みである。
宍戸 徳雄
Norio Shishido
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。