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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2017.04.17

マーライオンの眼差し (25) EP取得のハードル更に上がる(1)

矢野 暁(サムヤノ)

<最低給与額はS$3,600へ>

 2017年1月1日より、シンガポールの就労ビザの一つEmployment Pass (EP)の取得には最低でもS$3,600の月額固定給が求められるようになりました。それまでのS$3,300から一気にS$300と9%の上昇となります。もっとも2014年1月1日の上昇もそれまでのS$3,000からS$3,300と10%アップでしたから、ほぼ同じ上昇幅・率です。それにしても、6~7年前は確かS$2,500だったかと記憶していますので、比較的短期間に随分とハードルが高くなったものです。
S$3,600と言えば、S$1=80円で計算すると288,000円です。原則として、この最低額の水準は新卒者相当の職務経験が乏しい外国人に適用されるのですが、日本の大卒の初任給は平均で20万円にはとても到達しないわけですから、日本(の都市部)よりほぼ10万円前後の上乗せが必要という水準です。しかも、原則としては国籍に拘わらず全てのEP取得希望の外国人に適用されるわけで、弊社のお客様方を含め、周りにいらっしゃる日系企業の方々は頭を抱えています。
もちろん例えば30歳や40歳と職務経験を積んでいる外国人の場合、ずっと高い給与水準が求められますので、よほど有能な人材でないと、ベテラン、シニアほど雇用者側は採用を躊躇する傾向にあるというのが現実のようです。

<雇用状況の改善傾向が見えない>

 資源価格下落の影響等により、2015~16年のシンガポールの景気はパッとせず、特に2016年は地底を這っている感じでした。それでも2016年第四四半期はそれまでの低迷の反動で12%台の成長を記録し、直近では少しは明るい兆しも見え始めています。(下のグラフを参照)


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 しかし雇用状況の統計を見ますと、失業率は増加傾向にあり、2016年第四四半期はむしろ若干増加しています。もちろん2%程度ですからほぼ完全雇用を実現している水準と言えますし、景気回復が雇用改善に反映されるのにはタイムラグが生じている可能性もあります。(下のグラフを参照)


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<シンガポール政府は極めてCautious>

 2017年1月からS$3,600という改定は既に昨夏、すなわち景気も雇用も不調だった時期に政府決定したものですので、直近で一時的に景気回復したかに見えても決定を覆すことは出来ません。それよりも何よりも、政府は今後当面の景気に対して決して楽観していないことは明らかです。
 世界に保護主義的な空気が蔓延する中、自由貿易主義の旗を振り続けてきたシンガポールにとっては、旗が吹き飛ばされてしまうくらいの暴風逆風が吹き荒れています。一時的に揺り戻しなどで統計数値が改善しても、「一寸先は闇」と政府も企業も不安を抱いていることでしょう。
 そうした中でEPのハードルを更に高くしたことが吉と出るのか凶と出るのか、予断を許しません。次回もこのテーマに関連して、日本企業の対応、シンガポール人・PR活用について、そして日本人の心構えなどについて書きたいと思います。

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE

慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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