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2017.08.28
矢野 暁(サムヤノ)
<独立記念日のショー>
先日、シンガポールに移住して16回目のNDPを家族と一緒にテレビで観ました。来星して暫くはあまり興味が無く、「折角シンガポールにいるし、まあ観てみようか」程度だったのですが、ここ十年ほどは、祝日である8月9日に在星している時は、手の込んだ「一大ショー」を楽しみにしているほどです。
知らない方のために簡単に説明しますと、夕刻から始まるNDPの見どころは大きく分けて次の3つでしょう。
(1)軍事パレード
(2)市民・セレブによるステージ・パフォーマンス
(3)花火
開催場所は、歴史的な広場であるThe Padangで5年に一度、その他の年はThe Float @Marina Bayを中心に開催されますが、昨年は新National Stadiumでの屋内開催となりました。
「政府のプロパガンダ」だと言って冷めた目で見る人たちもいるでしょうが、私は毎年のNDPに感銘を受けています。パフォーマンスについては、涙して観ることもあるほどです(涙腺が緩いせいもありますが…)。
確かに政府・政治の意図を反映していますし、うがった見方をすれば、民意・人心を「誘導」していると言えないこともないでしょう。ですが、どの国でもこうした政府主催の国家イベントは、そういった性質を持つのは当然です。それでもNDPに見入るのには訳があります。
<世相を反映>
一つは、NDPを観るとシンガポールの置かれている状況が垣間見えてきます。例えば、政治・社会的な安定度により、イベントが意図するベクトルが国家の「結束強化」に向いているのか、より「未来志向」に軸足が置かれているかなどを感じ取ることが出来ます。ご参考までに、過去10年超にわたるNDPのテーマと、各年の国内外イベントを一覧表にまとめてみました。何か見えてくるでしょうか?
<NDPの効能>
次に、私なりに毎年テレビを観ながら感じるNDPの効能を挙げたいと思います。シンガポール(国家)にとっての効能です。書き出すときりがないので、2点だけここに記します。
(1)観客としてのみならず、ステージ・パフォーマンスに老若男女、あらゆるセグメントの市民が大勢参加しており、「参加型」のイベントを自ら体験することで国家への帰属心・親近感を高める。
(2)特にステージ・パフォーマンスの中で必ず多民族の融和への配慮を至る場面で施し、多民族の融和・結束が国家繁栄の根幹を成すものであることを市民にリマインドする。この一環として、NDPのために今まで作られてきた素晴らしい歌の数々(NDP Songs)も大きな効能を持つ。(YouTubeに沢山ありますので、知らない方は是非聴いてみて下さいね。)
<2017年のNDP>
さて今年のNDPですが、特に目を惹いたのがテロ攻撃への対応をシミュレーションした場面です。「ここまでやるかあ!」と感じる程、軍・警察による迫真の「演技」でした。以前のコラムでも、シンガポールに迫るテロの脅威について触れましたが、脅威レベルは更に上がっているようです。今年6月1日には、内務省が「テロ脅威評価報告書」というのを始めて作成・公表し、市民に協力を促したところです。
NDPのテーマは「#OneNationTogether」だったのですが、これはテロの脅威に立ち向かうために全市民が一致団結しよう、という意味合いです。テロ脅威を前面に出すことによる政治の求心力強化という思惑も透けて見えないわけではないですが、周辺国にIS帰還兵や同調者が増加している実情の中で、やはり脅威は切迫しているのでしょう。
ショーの最後には、シンガポール市場初めてオリンピック金メダルをゲットした水泳のジョセフ・スクーリングが舞台セットの山の頂上に登場し、「う~ん、やはり国民的ヒーローとなった彼で最後は締めるんだなあ」と感心しました。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。