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2015.03.30
小川 達大
この度、ベトナム版ウェブコラムの担当をさせて頂くことになりました小川と申します。ベトナムで暮らしながら、他の国も含めた東南アジアでの経営コンサルティングをしております。私は、大学生の時にベトナムを個人旅行して、ベトナムが大好きになりました。「住めば都」ならぬ、「住む前から都、住んでみてやっぱり都」といったところでしょうか。
さて、仕事柄、ベトナム企業の経営者や幹部と議論することが多くあります。
例えば、大手不動産開発会社の投資管理マネジャー。
ベトナムで、いくつかの大型ショッピングモールを開発している会社です。モール内のテナントの選択や配置が話題になった時のことです。「業界の有力企業として、ベトナムという国の小売業界や人々の生活の発展に長期的に貢献していく、ということについて、どう考えているか?」と聞いてみました。
すると、彼は少し考えた後に、「確かに、そういう考えは必要だと思っている。ただ、景気や不動産価格が大きく変動する市場では、短期間で利益を出すことを意識しないと会社が成り立たない」というようなことを言いました。
かつての日本の復興と急成長を支えた多くの企業では、「国の発展に貢献したい」「人々の生活を良くしたい」というような使命感が大きな原動力であったのではないかと思っています。そういったことを思いながら先ほどのベトナム人マネジャーの発言を聞いたので、少し寂しい気持ちになりました。しかし、考えてみれば、当時の日本と今のベトナムでは、世の中の荒波の種類が違うように思います。世界的な経済のスピード感が増す中で生き残っていくためには、行き過ぎた使命感は、企業の生死を賭けた意思決定を鈍らせるのかもしれません。むしろ、心の奥に小さく灯して続けている程度が丁度良いのかもしれません。
あるいは、最近、花を栽培販売する会社を立ち上げた若手社長。
農場経営ビジネスですので、農場で働く人達の管理が大切です。そのことに関して、彼も経営者ですから出来るだけコストを下げたいという思いはあるのですが、こんなことを言っていました。「ベトナムでは労働者を出来るだけ安く活用しようとする会社が多いが、自分は、そういうことはしたくない。ベトナムで一番良い給料で、一番働きやすい農園にしたいと思っている。みんなで稼いだ利益は、みんなで分け合いたいと思う」と。設立間もない会社ですから、この会社が何年続くか、あるいは、何年後かに同じ発言をしているかは、分かり得るところではありません。ただ、そういう経営者がベトナムにいる、ということをお伝えしたいと思った次第です。
2人のベトナム人の一言を取り上げて、どちらが良い/悪い、ということを言うつもりはありませんし、「ベトナムの経営者、かくあるべし」というようなことを論じるつもりもありません。企業が置かれている環境や、企業や経営者の個性の問題もありますので。
ただ、ベトナム人の経営者やマネジャーが、様々な意味において充実していくことが、この国の発展には欠かせないと日々思っています。
また、経営者ということで言うと、女性経営者の多さは、日本とは大きな違いです。経済雑誌フォーブスのベトナム版では、3号に1号程度、女性の経営者が表紙を飾っています。同じくフォーブスのアジア版が発表した「アジアのパワービジネスウーマン50(2015年)」には、2名のベトナム人経営者が選出されています。ビナミルクのリエン会長と、THミルクのフーン会長です。ちなみに、ともに乳製品メーカーですが、両社の戦い方は全く異なっています。ビナミルクは、業界最大手として、豊富なカテゴリと圧倒的な交渉力でシェアを確保しています。一方で、THミルクは、新興企業として、イスラエルの技術を導入したとされる高品質とブランディングの工夫でフレッシュミルクカテゴリ中心にシェア獲得を進めています。
私も、何人か女性経営者と知り合っていますが、皆様、大きなビジョンと強力なパワーで会社を牽引していらっしゃいます。あるいは、家族経営の企業では、男性社長の横に座っている女性(だいたい、夫婦でいらっしゃるのですが)が、実質的なパワーを持っているようなことも、よくあります。
このあたりは、残念ながら日本とは様子が違いますので、ベトナム企業との交渉や対話のテーブルに着く際には、自覚的に意識を切り替える必要があるのかもしれません。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa