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2015.05.25
小川 達大
2015年4月30日は、ベトナム戦争終結40周年の日でした。40年前の1975年4月30日、北ベトナム軍が南ベトナムの首都サイゴン(現ホー・チ・ミン市)に侵攻し、南ベトナムが崩壊、すなわち南北ベトナムが統一されました。当時の南ベトナムの大統領官邸が、今「統一会堂」として観光スポットになっている建物です。パリ和平協定が締結され、アメリカのニクソン大統領が「ベトナム戦争の終結」を宣言したのは1973年1月でしたが、それから2年ほど、ベトナムでの戦争は続いたわけです。
今回は、戦後世代のベトナム人経営者に目を向けてみたいと思います。多くの企業では、ベトナム戦争経験者が経営者となっていますが、徐々に、戦後世代も増えてきています。
まず浮かぶのは、チュン・グエン社のダン・レ・グエン・ヴー氏です。1971年生まれですので正確には戦後世代ではありませんが、ベトナム戦争後の空気の中で育ち、経営者となっていった方です。チュン・グエン社は、ベトナムコーヒーの生産とカフェ経営をしている会社です。ベトナム国内では100店舗以上のカフェを展開しており、世界60か国に製品を輸出しています。ベトナムはコーヒー豆の産地なので、昔から様々な場所で(レストランで、道端で)コーヒーが楽しまれていますが、ヴー氏は、ベトナムのコーヒー文化を近代化させ、同時に世界に発信していった立役者です。彼のプロフィールを見ると、「トヨタ、ソニー、日立、JVCといった企業のブランドが日本という国を思い起こさせるように」チュン・グエン社のブランドが世界中でベトナムという国を思い起こさせたいという思いが、綴られています。ベトナムには、昨年ついにスターバックスが参入したわけですが、迎え撃つチュン・グエン・コーヒーに注目が集まります。
教育・出版業界で活躍するチン・ミン・ヤン氏も、戦後世代です。フランスでMBAを取得した後、ベトナムにて、アルファ・ブックス社(ビジネス書の出版社)、ハノイVIP教育システム社(富裕層向け幼稚園・小学校の運営)などの経営に関わっています。アルファ・ブックス社は、海外のビジネス書の翻訳書も扱っており、例えば、日本の「もしドラ(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)」もベトナム語に翻訳されています。
ベトナムやタイで仕事をしていると、「英語で表現をした方が、プロフェッショナルな雰囲気を出せる」ということで、ベトナム人同士・タイ人同士が英語でメールのやりとりをしている様子を目にします。ところで、江戸時代末期や明治時代の日本人が西洋の学問を輸入する時、「西洋の言語での用語を、いかにして日本語で表現するか」ということに大きな労力が割かれていたようです。そう考えると、世界中のビジネス書がベトナム語に翻訳される時、ベトナムなりの経営文化が豊かになっていくのだと思っています。
ベトナムの民間銀行の最大手であるACB銀行(アジア・コマーシャル銀行)の社長も戦後世代です。チャン・フン・フイ氏は、ACB銀行の社長であったチャン・モン・フイ氏の息子として1978年に生まれました。アメリカでの留学経験を経て、ACB銀行にアナリストとして入社、2006年には28歳の若さでACB銀行の取締役に就任しています。途中、イギリスのロスチャイルド・グループに出向し、経験を積んでもいます。2012年にACB銀行の幹部が預かり資産の不正流用の疑いで辞任した際、空いたポストに就く形で、チャン・フン・フイ氏が会長に就任しました。以降、銀行の健全化と発展に勤め、The Asian Bankerというシンガポールの団体からMost Improved Retail Bank in Asia Pacificとして表彰されるまでに至っています。また、今年の3月には、JCBとともに、クレジットカードとデビットカードの発行を開始しています。
戦後世代の経営者は、若いうちにベトナム国外での教育や文化の刺激を受け、自国を外から客観的に捉えています。その上で、「自国に足りないものは何か?」「自国が世界に挑戦できることは何か?」と、考えを深め、行動に移しているように思います。こういった戦後世代の経営者が、ベトナム企業を発展させ、国を更に豊かにしていくことを期待しています。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa