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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色 アジア攻略のヒントは、ベトナムに在り

2015.08.17

【ベトナムビジネスで見た景色(6)】現地企業の「買収後」を攻略する

小川 達大

■日本企業のベトナムM&Aのトレンド

ベトナムに参入するにあたって、現地企業に対する出資や買収は有力なオプションです。既に稼働している生産拠点を活用できたり、ベトナム全土に広がる販売ネットワークを獲得できたり、ということで、自社のみでベトナムに進出するよりも短い時間での事業立ち上げが期待できます。いわば「時間を買う」ということです。
ベトナムが、生産拠点としてだけではなく、市場(消費地)として期待できるようになってくると、特に、現地企業がこれまで築き上げてきた経営上の資源を活用する意義が大きくなってきます。

M&A(合併・買収)に関する助言を提供しているレコフによると、2015年1~6月で、日本企業による海外企業に対するM&A件数は259件で、そのうちアジア企業が87件(北米83件、欧州64件、その他の地域25件)、更にそのうちベトナム企業が11件(シンガポール17件、中国16件(本土8件、香港8件))でした。今後も、日本企業のベトナム進出の増加と、国営企業の民営化とコア事業への集中(≒ノンコア事業の売却)の影響を受けて、トレンドとしては増えていくと思います。

日本企業のベトナム企業買収が増えると、何が起こるか。

当たり前のようですが、「買収後」の局面が増えていく、ということです。
今回は、この「買収後」の攻略について、議論をしていきたいと思います。

■素早い「買収後」攻略の重要性

企業間のM&Aは、よく「結婚」に例えられます。婚姻届が提出されたその日から、育ってきた環境の異なる他人同士が1つ屋根の下に暮らし、共同作業や出産などを通じて、家族として絆を深めていく。しかし、そのプロセスでは、大小様々な「衝突」や「すれ違い」があるものです。人生に対する価値観の違い、家事の分担、味噌汁の味の違い、正月の雑煮の餅の形など。
日本企業がベトナム企業を買収するとなると、それは、いわば「国際結婚」ということになります。日本人同士の場合とは、異なった種類や頻度の「衝突」や「すれ違い」が起こるであろうことは、容易に想像がつくことです。

企業同士の場合、こういった「衝突」や「すれ違い」を超えて、達成していく成果は、経営数値(売上や利益など)の改善という形で表れてきます。 そして、その経営数値の改善は、ある程度は、予め買収価格に織り込まれているケースがほとんどですので、買収前よりも買収後の方が業績を良くするということは、(いくつかある中で、最も重要な)「買収前の約束事項」ということになります。そして、その約束事項を達成できない場合には、種々のステークホルダーへの説明責任や対処が必要になってきます。(もし、人間の結婚において、このような約束事項のようなものがあったとすれば、誰も結婚する勇気を持てないかもしれません…)

私は、買収後に企業同士が1つになっていくプロセス(Post-Merger Integration (PMI))というのは、生鮮食品のようなものだと思っています。契約締結の日は、心身ともに疲弊していく交渉が漸く終わったという高揚感と、新しいパートナーに対する期待感が、大いに高まります。経営陣はもちろん、社員もまた、そのような期待感を抱きます。しかしながら、統合後、1か月が経ち、2か月が経ち、半年が経ち、、と時間が経過すれど成果が出てこないとなると、人心も離れていくものです。そうなってくると、両社の社員の力を動員することが難しくなり、PMIはますます停滞してしまいます。

一般的には、「100日プラン」というような言われ方もありますが、契約締結後の数か月間に、しっかりと両社のリソース(ヒト、カネ)を割いて、PMIを一気に進めていくことが求められます。ちょっとしたことであっても買収の意義を見せる(シングルヒットを打つ)ことで、まるで、雪だるまが坂を転がるように、PMIの動きを拡大・加速していくのです。

■日本企業視点と現地市場視点の融合

ここまでは、M&Aの一般論ですが、日本企業がベトナム企業(あるいは、アジア企業)を買収するとなると、固有の難しさが表れてきます。

乱暴な言い方をしてしまえば、ベトナム企業は、日本の「ちゃんとした」会社から見れば、「ちゃんとしていない」会社に見えてしまうことが多いのです。経営計画、経営管理、コンプライアンス管理、環境対策、業務プロセス、人事など、挙げればキリがありません。
実際、弊社が支援をさせて頂いたPMI案件でも、様々な部署が現地企業の現状把握をすると、オフィシャル/アンオフィシャルに「あれが足りない」「これが足りない」「体制が頼りない」というフィードバックがなされていきました。

しかしながら、ベトナム企業は、ベトナム市場の「今」にフィットするように適応してきているはずです。日本市場で活動している日本本社の視点から見れば「ちゃんとしてない」経営の在り方も、現地市場の視点から見れば「適切」であることもあるはずです。なので、日本流をベトナム現地に押しつけ過ぎると、現地企業の競争力を削いでしまうことにもなりかねません。しかしながら、改善点があるにもかかわらず、そのまま放置していては、「買収前の約束事項(経営数値の改善)」の達成が出来ません。

つまり、

・日本本社の視点だけでなく、現地市場の視点で
・「改善すること」と、「維持すること」の峻別を明確にして(図参照)
・契約締結後の短期間・高密度で

PMIを遂行することが肝要だと思っています。

それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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