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2015.11.09
小川 達大
ベトナムの大学で、学生向けに論理思考やチームビルディンクをテーマにした研修をしたことがあります。ベトナム人大学生にとって外国人ビジネスパーソンの話を聞く機会は少ないようで、非常に熱心に取り組んでくれたという印象です。チームビルディングの一環としてペーパータワー作りをしてもらいました。紙のみで出来るだけ高いタワーを作るという至ってシンプルな内容ですが、課題設定、方針検討、実施、方針修正(PDCA)というような、ビジネスにも必要な思考を疑似体験できます。面白かったのが、あるチームが塔の上に紙で作った舟を乗せたことです。チャレンジの目的に照らすと「資源の無駄遣い」でしかないのですが、遊び心に「らしさ」を感じた次第です。
ベトナム政府は、ドイモイ政策の一環として高等教育の強化を進めています。2005年に「高等教育改革アジェンダ(HERA:Higher Education Reform Agenda)」が承認され、2012年には「教育開発戦略 2011-2020」が決議されました。この「教育開発戦略」では、高等教育の水準や教育マネジメントの品質の低さを課題として挙げた上で、「2020 年までに、ベトナムの教育システムを根本的、総合的に改善し、標準化、近代化、社会化と国際化に向けて改革すること」を目的にしています。1999年には153校だった大学・短期大学の数は419校(2012年)にまで増加し、学生数は90万人程度から220万人程度にまで増加しています。
これらの改革の一環として、海外の大学(ドナー大学)と連携した新しいモデルの大学が設立されています。ドイツの大学・政府と連携した独越大学と、フランスの大学・政府と連携したハノイ科学技術大学が既に設立されています。これらの大学はドナー国の教育プログラムと大学マネジメントを参考にしながら運営され、講師陣もドナー国から派遣されます。
同様の取り組みとして、日本がドナーとなる日越大学も準備が進められています。日本の大学との連携のもと、ナノテクノロジー、新材料技術、機械及びオートメーションなどの高度な技術分野のほか、気候変動や新エネルギーといった学際科学分野の教育にも注力する計画だそうです。(出所:VietJo (2014/12/24))
UNESCOの統計を見ると、いわゆる文系・理系問わず、大学教育の充実が必要であることが分かります。
ベトナムの高等教育の発展に対する日本の貢献を考えると、理系の分野では、大いなる貢献が期待できると思っています。例えば、日本の大学がグローバル大学ランキングで多くランクインしているのは、物理学や化学などの領域です。
一方で文系分野では、日本の大学は世界での(大学ランキングなどでの)評価が理系分野ほどには高くありません。背景には、英語での論文が多くないことなどがあるそうです。しかし文系分野は、文化的なコンテクストの影響が大きい領域かと思いますので、アジアとしての共通性のある日本での教育や研究に関する蓄積が、ベトナムの教育や研究の発展の参考になるのではないかと期待しています。日本だからこそできる貢献だと思っています。
ところで、日本の大学は、国内の少子化に対応していく必要があります。留学生増加や海外展開といった「大学の国際化」は、1つの対応策です。日越大学という取り組みが、講師の海外派遣の制度作りや、海外市場に受け入れられるコンテンツ作りといった形で、日本の大学の国際化を新しいアプローチで進めていくための契機になるのではないかと期待しています。
日越大学は、ベトナムの発展に貢献することはもちろん、日本に関心を持つ優秀な人材を増やすという意味で日本企業のベトナムビジネスのソフト・インフラの充実にも繋がります。更には上記のように、日本の「大学の国際化」にも良い刺激を与えそうです。
参考)「ベトナム国 日越大学構想に係る情報収集・確認調査ファイナル・レポート」(国際協力機構(JICA)(2014年5月))
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa