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2015.12.07
小川 達大
日本企業のベトナム展開の中で、よく耳にする言葉。「リスク」。今回は、この言葉について考えていきたいと思います。
ベトナムを含むアジア新興国では、市場環境や現地企業に関して、意思決定に必要な情報を揃えることが難しいです。そういった情報の不十分さは、不確実性となって企業経営に影響を与えます。日本企業のリスクに対する関心は非常に高く、新聞や雑誌の記事にはアジア市場に関わる「リスク」への言及が踊ります。(ネガティブな不安を抱かせる記事の方が、注目を集めるのかもしれません。)ベトナムについては、共産党による政治、法律や規則の未整備、行政の腐敗、インフラの弱さ、災害・疫病など、多くの点が指摘されています。
また、ベトナムへの進出を検討中の企業や、既に事業展開をしている企業でも、ベトナムにおけるリスクが話題に上っていることかと思います。
しかし、日本企業の中には、リスクへの向き合い方が不適切で、ビジネスチャンスを逃しているケースも多いように思います。そういったケースでは、「リスク」の中味を客観的に検討することなく、無根拠に/必要以上にリスクを恐れていることが多くはないでしょうか。いわば、「リスクおばけ」です。場合によっては、ベトナム進出の断念や追加投資の停止という結論ありきで、「リスクおばけ」を持ち出していることもあるかもしれません。
例えば、「共産党による政治がリスクである」というのは、具体的に何が、どうなることをリスクである、と言っているのでしょうか。あるいは、「人件費高騰のリスク」といった時に、いくらの人件費が、何パーセント上昇する可能性について語っているのでしょうか。あるいは、「ベトナムなんて、リスクだ」と「何がリスクなのかも分からないリスク」という状況もあるかもしれません。
「リスク」とは、
「危害の因子」×「危害の発生確率」×「危害のインパクト」
という3つの要素によって定義されると考えています。
先ほどの共産党リスクや人件費高騰リスクに関する、ある種の過剰反応は、これら3つの要素を十分に検討することなく、不安が先行してしまっている状況と考えることができます。
なぜ、こういう状況に陥るのか。
それは、日本企業の意思決定の構造に、「3つの断絶」があるからだと考えています。すなわち、「本社と現地の間の断絶」「現地市場からの断絶」「現地ビジネスパートナーとの断絶」です。
こういった「断絶」があるために、意思決定に必要なリアルな情報が意思決定者のもとに集まらず、不安を増幅させてしまうような印象論だけが、本社の会議室の中に充満していくのではないでしょうか。
「リスク」と認識しているものの中味を丁寧に分解しながら、それぞれについてリアルな情報を収集していくと、「リスクおばけ」は消えていき、冷静な検討の対象となっていきます。実は、「分からない」と思っていることでも、その気になれば、意外と手軽に情報収集できることも多いものです。
冷静にリスクを検討した後は、そのリスクを取るのかどうかを意思決定していかなければなりません。変化の早い新興国市場では、やはりリスクを取って勝負する、という場面は必要になってきます。そうなると、全会一致型の集団的意思決定では合意に至りません。意思決定者が、中期的な戦略との整合性や検討対象の機会としての魅力を踏まえた上で、責任を持って、ものごとを決めていくべきです。
それが、意思決定の体質の「アジア企業化」だと思います。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa