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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色 アジア攻略のヒントは、ベトナムに在り

2016.01.12

【ベトナムビジネスで見た景色(11)】ベトナムの人材事情

小川 達大

ベトナムの魅力を語るとき、「若くて優秀で器用な人材を、比較的安く、大量に獲得できる」と言われることがあります。今回は、この点について、考えていきたいと思います。

■日本企業から見たベトナムの魅力

国際協力銀行の調査によると、ベトナムが有望な展開先である理由として、(1)現地マーケットの今後の成長性、(2)安価な労働力、(3)優秀な人材、(4)他国のリスク分散の受け皿として、(5)現地マーケットの現状規模、が挙がっています。
他の国と比べてみると、安価「かつ」優秀な人材が評価されていることが分かります。

実際、ベトナムに進出している企業の声を聞くと、ベトナム人の器用さや優秀さへの評価が挙がってきます。ベトナムの空港にいる沢山の出迎えの人々や、大量のバイクの往来を目の当たりにすると、ベトナムという国の「ヒトの力」を五感で感じるのかもしれません。

■ベトナム人の優秀さ、とは?

下記は、ASEAN各国の数学力・科学力・英語力を比較したものです。各国での学力テストの結果です。

直感的には、経済水準と(平均的な)学力というのは比例しそうなものですが、ベトナムはタイやマレーシアという中所得国よりも良い成績を出しています。実は、数学オリンピックでもベトナム人は良い成績を残しています。教育意識の高さに加えて、学習のペースが早いことも理由として挙げられます。

しかし、この優秀さは、明確に定義された問題に対して決められたプロセスに従って答えを出すことが得意である、ということのようです。一般論としては、自ら課題を発見したり、創造的に解決したりすることは苦手である、ということが指摘されています。日本でも似たような指摘がありますが、いわゆる詰め込み教育の弊害、ということかと思います。

■豊富な労働力?

若い労働者が豊富にいるということが評価されているベトナムですが、実は、ヒト不足の足音が近づいています。
一般的には、経済水準の低い国は出生率が高く、国が発展するに従って出生率が下がっていきます。ある程度の経済水準に達すると死亡率が下がりますので、多産少死による人口増加の局面に入ります。それが、労働力の供給と貯蓄率の上昇をもたらし、経済発展に寄与するということが言われています。
しかし、下記のグラフにあるように、ベトナムは所得水準の割に、出生率が低いのです。いくつかの要素が影響しているかと思いますが、ベトナム政府による「2人っ子推奨キャンペーン」の影響が大きそうです。人工中絶の多さも問題として国内外から指摘されています。ちなみに、子供の数が少ないために教育が充実し、学力テストの成績の良さに繋がっているという面もあるように思います。

出生率の低さに加えて、ベトナム戦争の影響もあり、人口ボーナスは、意外かもしれませんが2020年には終わってしまうと予想されています。人口ボーナスとは、総人口に対する生産年齢人口(15~64歳)の割合が上昇している期間のことで、人口の増加が経済の発展に寄与している期間ということになります。
農村から都市への人口移動という要素もありますが、いずれにせよ、豊富な労働供給が継続することを前提にした環境認識は適切ではありません。

■将来を見据えたベトナム事業を

こういう風に見てきますと、「若くて優秀で器用な人材を、比較的安く、大量に獲得できる」というベトナムの魅力は、いずれ相対的に弱くなってしまう、ということが分かってきます。労働力の安くて豊富な国をキャラバンのように転々とするということも業種によっては有りえるかもしれませんが、多くの企業にとって現実的ではありません。

生産性の向上に本格的に取り組んでいかなければなりません。そのためには、根気強く組織の力を強化していくことです。短期的な課題解決と成果のための取り組みと、中期的な組織力の強化に向けた取り組みとの調和を採るような経営的判断が求められます。そういうバランスのとれた意思決定の積み重ねが、ベトナムに根付いた会社を創っていくことに繋がっていくと思います。

それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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