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2016.03.07
小川 達大
日本企業の海外事業マネジメントを観察していて抱く違和感。
今回は、このことについて考えてみたいと思います。
日本企業の海外マネジメントには大きく2つのクセがあると思っています。
1つは、本社と現地法人との間でやり取りされる情報の中身についてです。本社側が財務情報やKPI(key performance indicator:主要業績指標)だけでなく、業務の細部にまで、現地法人側に情報提供を求め、また、それら情報がある程度揃わないと意思決定をしようとしない傾向にあります。 日本企業の本社経営陣が、日本事業の現場から「上がっていった」方が多いことがその背景にあると思います。現場での実際の景色を具体的に想像できなければ、意思決定に踏み出せないことも多いように思います。また、そういった情報を基にした本社からの指示も、業務の細部に踏み込むことが多くなります。
もう1つは、情報伝達や指揮命令の経路についてです。本社と現地法人の間の情報伝達・指揮命令系統が、単線ではなく、非公式なものも含めて複線になっている傾向にあります。例えば、営業部門の中に海外営業部門/海外事業管理部門がある場合、製品開発や製造などに関しては本社の別部門とのコミュニケーションが必要になります。あるいは、海外事業担当ではない本社役員から「御助言」があるケースも多いように思います。日本企業の特徴である「総意(コンセンサス)型の意思決定」の構造・思想が反映されているのだと思います。また、現地法人に駐在する日本人が、日本本社の従業員(≒共同体構成員)でもあるという点も大いに影響していると考えます。
日本企業の海外展開が拡大していく中で、上記のクセには変革が迫られています。
本社と現地法人との間でやり取りされる情報の中身について。本社の経営陣に海外事業や新興国事業の経験が少ない場合、現地から上がって来た具体的な情報を適切に解釈することが難しくなります。無意識に日本事業での経験をもとに解釈してしまうので、現地目線での適切な認識とズレが生じてしまうのです。更には、管理するべき海外事業の数が増えた結果、全ての事業について業務の仔細まで本社が理解することは難しくなってきました。ましてや、頻繁に現地に足を運び、その国の事業環境を五感で理解し、アップデートしていくことは不可能です。 そのため、現地から本社に上げる情報の精査と整理が必要になります。海外事業管理のフォーマットを作成し、場合によってはITシステムも導入しながら、海外事業管理の「カタチ」を整えることに取り組む企業が増えてきています。大手の多国籍企業の事例を参照しながら、仕組みを導入している企業もあります。
情報伝達や指揮命令の経路について。「御助言」や「根回しの必要」が多発する状況では、現地側(特に、現地人管理職)は、誰の意見を尊重して活動すれば良いのか混乱してしまいます。日本的な共同体的カイシャ意識は、他のアジア人とは共有できないと考えた方が良いのです。
そういうこともあって、一部の日本企業は、組織変更に取り組んでいます。例えば、本社の海外事業部に権限を集約させることなどによって、「現地法人が、どこを向いて仕事をすれば良いのか」を整理します。
こうして海外マネジメントの「カタチ」の変革に取り組んでいる日本企業ですが、状況はそれほど好転しているようには思われません。
それは、新しい制度を運用する経営陣や会社という法人の「ココロ」が変革していないからに他なりません。
例えば、KPI管理を導入しても会議の場では必要以上に多くの定性的かつ具体的な説明を求めたり、本社側から具体的過ぎる指示が公式なのか非公式なのか分からないまま発せられたり、ということが頻発しています。もちろん、本社と現地法人が密な意見交換を行うことは不可欠です。しかし、マネジメントの仕組みやツールを新しくしてもなお、それを活用する人々の日々の行動や発言、あるいはそれらの前提になる視野と発想が以前のまま、ということが多くはないでしょうか。
本質的な「ココロ」の在り方を変革することなく「カタチ」だけを変えていくことは事態を悪化させるだけです。本社での意思決定が一層遅くなってしまったり、現地法人の社長が板挟みになったり、現地社員の離反が加速したり。
「ココロ」の変化は、すぐには実現しません。 まず「カタチ」を変えることが、「ココロ」の変化を促すこともあります。 また、経営陣の新陳代謝が会社の「ココロ」を変えていく、というのも、真実だと思います。
ただ少なくとも、「カタチ」の変革に取り組む際には、自分たちの「ココロ」の在り様と、あるべき変化の方向性にも検討の目を向ける必要があると思っています。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa