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2016.06.27
小川 達大
2016年3月にトヨタ自動車がインドネシアに開所した工場が注目を集めています。エンジンの主要工程である鋳造、機械加工、組み付けを1つの屋内に集約しており、こうした工場はトヨタ初だそうです。(出所:「トヨタ、新興国エンジン工場の『進化力』」(ニュースイッチ2016/6/13))需要の変動が激しい新興国市場への対応力を備えるために、これまでのトヨタのノウハウを結集した新型工場を建設したわけです。
新興国が変化と競争の激しい市場であること、そして、これまでの遺産に縛られ過ぎることなく新工場を建設できることなどが、「新興国に新型工場」という現象をもたらしているのだと思われます。
単に「先進的な日本の技術を、新興国に導入する」という発想だけでは、正しい意思決定ができない時代になっていると考えるべきです。日本での知見や経験を踏まえつつも、新興国での環境や資源の特性を踏まえて、製品やオペレーションに革新を起こしていくことが必要になります。
日本とASEAN地域の経済関係の在り方は、時代の要請を受けて変化しています。当初は、「安価な生産拠点としてのASEAN」でしたが、近年は「消費市場としてのASEAN」に注目が集まってきています。また、これからの時代は、アジア全体を冷静に見渡して、それぞれ国の特性を活かすように、最適な場所に最適な工程を置いていくことが大切になってくると考えています。国際競争力のある「アジア・ワイドなバリューチェーン」を作ることが求められます。その設計においては、「日本が先進的」で「新興国が遅れている」というような単純な認識は、機会を見失うことに繋がります。
日本企業は一般的に、「擦り合わせ型」の製品や事業において国際的な競争力を発揮するとされています。様々な部品の総合的な統合の結果として、製品の機能や性能が実現するような製品のことです。例えば自動車など。こういったビジネスでは、各工程間の密な擦り合わせが必要になります。直感的にも、日本人には得意そうな仕事の進め方のように思います。
一方で、いわばレゴブロックのように、特定の機能を備えた部品を組み合わせることによって完成するような製品(「組み合わせ(モジュラー)型」)では、なかなか競争力を発揮しづらいとも言われています。例えば、パソコンやスマートフォンなど。
東京大学の藤本隆宏先生は、どういう風な「ものづくり(「擦り合わせ型」or「組み合わせ型」)」が得意なのか、ということは、国や地域によって違っているだろう、と議論していらっしゃいます。中国は「組み合わせ型」が得意で、インドとASEANは「擦り合わせ型」が得意になっていく潜在性がある、という仮説を立てています。(参考:「アーキテクチャの比較優位とアジア製造業」(藤本隆宏 2006/7))経営コンサルタントとしてアジア各国の現場を目にしている私の実感からしても納得できる仮説です。
だとすると、国際競争力のある「アジア・ワイドなバリューチェーン」を考えた時に、日本とASEANという組み合わせは、非常に相性が良さそうです。日本企業あるいは日本人の「匠の技」が、ASEANの土地や人と化学反応を起こし、多くの革新を生み出していくことを期待しています。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa