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2016.11.14
小川 達大
本論と直接は関係ありませんが、アメリカでトランプ大統領の誕生が決まりました。トランプ氏は「大統領就任初日にTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱する」と発言していますので、TPPの発効は難しくなったという見方が強まっています。ただ、トランプ氏の勝利とは別の次元の大きな国際的な流れを見ても、保護主義的な動きが高まっていますので、大統領選の結果に関わらず同様の結果になっているのかもしれません。ベトナムにとってTPPはアメリカ市場への輸出競争力を高め、中国からのシェアを奪う契機になるのだろうと期待されていましたので、今回の大統領選で先行きの不透明感が増したということになります。
例えば、大統領選とTPP。様々な要因によって、ベトナム国内のビジネス環境は変わるものです。外的な要因もあれば、内的な要因もあります。急な変化もあれば、ゆったりとした変化もあります。先進国と比べると変化に対応するためのシステムが国内に整備されていませんので、その変化のインパクトは大きく長いものになりがちです。
ベトナム市場に参入した当時とは、ビジネス環境が変わってしまっていることもあるでしょう。原材料、人件費、土地代といった生産に投入するコストが上がっている。製品が売られている場所(チャネル)や、その場所までの流通経路が変わっている。競合の数や競争力が増している。ビジネスに関する規制が変わっている。様々な種類の変化があるでしょう。いくつの変化は事業を運営している企業や担当者も知覚しているものですが、いくつかの変化は知らないうちに起こっていて「あらためて客観的な眼で調べてみると、変わっている」ということもあるかもしれません。
議論を具体的にしていくために、販売活動に議論を絞っていきたいと思います。非常に乱暴に言ってしまえば、ひと昔前(それが、どれくらい「前」なのかは、業界によって異なりますが)は、「それなりの品質の製品を、それなりの価格で、しっかりと顧客まで届けること」が大切でした。その製品がベトナム全土に普及していないような状況では、そもそも顧客にまで製品を届けることが競争のポイントになっているのです。「ディストリビューション」の時代です。そういった時代では、特にアジア市場では、人脈をベースにした販売網と、「柔軟な」販売活動(割引やキックバックなど)が重視される傾向にあります。
しかし今や、チャネルの種類は多様化し、顧客のニーズも多様化し、顧客の目は肥え、競合も増えています。そういう状況では、「どういう種類の顧客を自分たちのターゲットにするのか」「どういう場所で販売するのか」「どういう製品を、いくらで売るのか」「競合との差別化を、いかにして実現するか」「いかにしてブランド価値を継続的に高めていくか」といったことも重要になってきます。もちろん「ディストリビューション」の競争力を持つことは前提条件なのですが、「マーケティング」の時代になります。そういった時代では、理解しなければいけないこと、検討しなければいけないことが多くなります。人脈ベースの販売網や「柔軟な」営業活動では、達成できない課題に直面することになります。
こういった時代の変化においては、過去の活動の仕方が、ビジネス環境からの要請にフィットしていないことがあります。過去の成功の方程式に対する自信(過信?)が、今の活動の足枷になっているようなこともあるかもしれません。変化に対応するためには、現地法人が担う機能を設計しなおし、それに合わせて組織を替え、人材を補強することが必要になるでしょう。そして、何より大切で、しかし難しいのが、事業に関わる人々の考え方を変えることです。自分たちが成し遂げなければならないこと、成功を規定する時間軸、そのゴールまでの道のり、自分たちの価値の根源。無意識にまで根付いていることも含めて、意識を変えていく必要があるわけです。
日本本社とベトナム法人のトップが密に協力しながら、この変化のプロセスを強い覚悟をもって進めていくことが求められます。
中所得国と言われるタイやマレーシアでは、経済が変曲点にあることもあって、こういった変化の要請に直面している日本企業を多く見てきましたが、ベトナムでも、そのような状況が増えてきているように思います。
それでは、ヘンガップライ!
小川 達大
Tatsuhiro Ogawa