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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色 アジア攻略のヒントは、ベトナムに在り

2017.01.10

【ベトナムビジネスで見た景色(24)】新興国市場と向かい合う時間軸

小川 達大

新興国事業について議論している時には、時間軸を意識することが大切です。

例えば、ベトナム事業について、社内に対立した意見があるかもしれません。ある人は「ベトナムに進出している日本企業向けのビジネスを中心に展開するべきだ」と主張し、ある人は「ベトナムでビジネスをするのだから、ベトナム企業向けに展開するべきだ」と主張する。一見、両者の議論は、真っ向から対立しており、どちらかが折れることなしには、合意は見られないように思われます。

しかし本当は、議論する時間軸の違いかもしれません。日本企業向けのビジネスを中心に据える、というのは今後5年間ほどの時間軸を意識した議論で、ベトナム企業向けに展開するというのは20年後を想定しているかもしれません。更に、日本企業向けにしっかりとビジネスを展開することが、20年後のベトナム企業向けのビジネスに向けた「助走」になるかもしれません。そうなると、両者の議論は、対立しておらず、むしろ、ステップ論ということになります。新興国事業を検討する際には時間軸を意識することが、社内の対立を昇華することになるかもしれません。

それでは、意識するべき時間軸とは、何年くらいでしょうか。業界にもよりますが、10~20年の長期と、数か月の短期の両方を意識することが大切だと考えています。長期の視点というのは、人口予測と経済発展などに基づいた大きなマクロ動向に関する、「数年のブレはあるかもしれないが、大きな流れとしては、こういう方向に市場が変化していくだろう」という大局観のことです。短期の視点というのは、顧客や競合の状況を敏感に感じ取って「今まさに、ここにビジネス機会がある!」と目端を利かせることです。一方で、3~5年くらいの見通しを、「必ず訪れる将来予測」として細部に至って信じすぎて意思決定の前提にしてしまうのは適切ではないように思います。新興国市場は、その規模の小ささと制度の不整備ゆえに、様々な外部要因によって、大きく変動することがあります。また、突然の法律・規制の変更という事態もあります。

大局観に基づいたブレない大方針と、目端を利かせた瞬発力の両面が必要です。この2つは、相互に補完的であるはずです。大方針だけでは様々な変化に置いていかれてしまいますし、大方針が無い状況で目の前の変化にジタバタしていては事業の発展はありません。

この両面を、組織構造において捉えるとすると、大方針を持つトップと、瞬発力を発揮する現地リーダーという組み合わせが望ましいと思います。新興国市場では短期的には様々な・予想外のこと(「事件」と言っても良いかもしれません)が起こります。それらに、いちいち一喜一憂・方針転換していては、進む事業も進みません。様々な「事件」に対しては、社内外から様々な反応(そして、そのほとんどはネガティブなものでしょう)があるでしょうが、トップに求められるのは大局観と胆力で以てそれらを鎮めることです。一方で、現地で起こっている様々な変化に対応するのに、いちいち本社に説明をして承認を得ているようでは、新興国市場のスピードに置いて行かれます。大局観に基づいた大方針をトップと共有する現地のリーダーが、瞬時に意思決定を下していくことが、ビジネス機会を自分たちの手にすることに繋がります。それゆえ、トップは、現地リーダーに対して、思い切った権限委譲をすることも必要です。実際、トップの強い長期コミットメントのもと、現地に思い切った権限委譲をしている会社が、新興国市場で大きなシェアを獲得している例がいくつもあります。

とはいえ、社内/社外向けの事業計画を作る際には、10~20年では長すぎますし、数か月では短すぎます。そこで、複数のシナリオとチェックポイントを設けることが有効だと思っています。例えば、「3年後に、1人あたりの消費量が●●ドルになるシナリオ(Aシナリオ)、◆◆ドルになるシナリオ(Bシナリオ)、▲▲ドルになるシナリオ(Cシナリオ)」と置き、「3年後に、Aシナリオであれば50億円の追加投資(第2工場建設)、Bシナリオであれば15億円(既存工場にライン増設)、Cシナリオであれば追加投資延期(1年後に再度検討)」というようなイメージです。いきなり大きな意思決定をするのはリスクがありますので、意思決定の大きさを分割して、リスク低減と柔軟性を獲得するということです。

 事業の捉え方に影響を与える時間軸というものは、体内時計のようなもので、無意識の中で形成されていくものかと思います。しかし、安定・成熟した日本市場と、不安定・発展途上の新興国市場とでは、その「時の流れ」は違うはずです。自分たちの中にある時間軸を意識の上に引っ張り出し、吟味してみることが必要ではないでしょうか。

それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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