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2017.03.06
小川 達大
ベトナム初の民間旅客航空会社が生まれたのは、2011年(就航)です。ベトジェットエア(Viet Jet Air)です。今やベトナム国内の旅客数シェアを国営ベトナム航空を分け合う存在にまで成長し、2017年2月28日にはホーチミン証券取引所に上場しました。
このベトジェットエア、事業開始当初は予約に不具合がありましたし、遅延ばかりでしたので、なかなか利用しづらいものでした。弊社ではビジネス出張時の利用を禁止していました。また、機内でビキニ女性のファッションショーをして話題になるものの国からお咎めを受ける、ということもありました。そんなこともあって、どちらかと言えば危なっかしい「離陸」だったように思います。
ベトナムの旅客数は、2013年以降、大きく成長しています。その成長を牽引しているのが、ベトジェットエアです。一方、ベトナム航空の売上高は、2012年以降停滞が続いています。
安い料金帯では、ホーチミンからハノイへのフライトが数千円です。丸一日以上かかってしまう長距離鉄道よりも安いのです。そういうことだとすると、数時間の遅延は、利用者にとって問題にならないかもしれません。また、ベトナムの中所得層の拡大も追い風になっています。アジアのローコストキャリア(LCC)の雄であるエアアジアのスローガンは「now everyone can fly」です。高所得者だけのものであった飛行機移動を、あらゆる人々に柔軟に提供する、というのが、(アジア市場における)LCCの存在意義です。ベトジェットエアもベトナムのあらゆる人々に飛行機移動の機会を提供しており、実際、その方針が消費者から評価されているわけです。
この躍進の背景には、ベトナム政府の後押しもあるようです。国営ベトナム航空が独占している業界での競争を健全かつ活発にするために、ベトジェットを想定しながら規制緩和を進めてきたという事情もあるとのことです。
とはいえ、リスクもあるでしょう。航空機輸送ビジネスには、機材の回転率を上げることが重要になりますので、値段を下げて座席を埋める、という価格戦争が起こりやすい構造があります。その戦いに積極的に向かっているのがベトジェットです。しかし、その裏返しとして、景気動向や燃料費市況に対して脆弱になりがちです。また、ちなみにベトナム情報サイトのベトジョー(http://www.viet-jo.com/)によると、2015年度の売上高の40%程度がリース会社に対する機材調達・販売で構成されているようです(ベトジェットのタオ社長は、モスクワ留学の頃からの衣料品卸ビジネスからキャリアをスタートしています)。
中所得層が拡大し市場成長が新しい段階に入っていく。そして、その成長を、民間企業が捉えていく。ベトジェットエアの躍進は、ベトナム経済が新しいステージに入っていくことの象徴です。
それでは、ヘンガップライ!小川 達大
Tatsuhiro Ogawa