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2015.01.26
宍戸 徳雄
ミャンマーにとって、2015年は、民主化後約3年の成果が判断される総選挙が行われる年である。
2014年、ミャンマーは、ASEAN議長国として、その役割をきっちりと実行した。11月のASEAN首脳会議+東アジア首脳会議において、テインセイン大統領は、オバマ大統領、日本の安倍首相、中国の李首相などと会談した。民政移管後の成長と民主化の成果について一定程度アピールできたと言える。ASEAN会議議長としては、南シナ海の海洋秩序の維持に向けて、中国を牽制しながら、リーダーシップを発揮した。
オバマ大統領は、テインセイン大統領との会談において、「ミャンマーの民主化が本物であり、様々な障害により簡単には進まないだろうが、楽観視している」と述べ、ミャンマーの民主化のプロセスについて一定の評価をした。さらに、「2015年の総選挙が予定通り開催されることを期待している」と述べ、総選挙が公正な手続きの下に実施されるよう要請している。
オバマ大統領は、来緬に先立って行われたテインセイン大統領、ミャンマー最大野党NLD党首のアウンサンスーチー女史との電話会談でも、2015年の総選挙の公正な実施を要請し、ミャンマー大統領府、議会、軍、与党、野党のトップ同士の政体会議を実現させた。この会議では、副大統領2名を含む大統領、トラシュエマン下院議長、ミンアウンライン国軍総司令官、テーウーUSDP副議長、アウンサンスーチーNLD党首などが一同に会し、2015年の総選挙の実施を確認した。この会議の中では、NLDが求める憲法改正については、国民の意思と規定の手続きに基づき行われるべきことが確認され、スーチー女史もこれを確認している。
しかし、その後のオバマ大統領の来緬時における会談で、スーチー女史は、以前より主張してきた自らの国家元首就任を阻む規定である憲法59条の改正の必要性を、米国政府とともに、改めて国際社会へ強く訴えかけた。オバマ大統領も、同規定の不公正さについて言及している。スーチー女史としては、主張の拠り所は、規定自体の非民主性だけでなく、昨年実施された憲法改正を求める500万人の署名(議会へ提出済)はミャンマー国民の意思であり、これを無視することは、民主主義のデュープロセスに反するという主張だ。
従来より、ミャンマーの民主化の実現に向け一枚岩であった米国とスーチー女史。11月の会談では、オバマ大統領が、現政権の民主化が本物で、今後の進展を楽観視すると述べたのに対して、スーチー女史は、民政移管後の2年間は民主化が停滞していて、楽観視しすぎるのは危険であると、米国の見方を戒めている。また国内のイスラム系少数民族への政府による迫害問題について、米国は積極的な懸念を示したのに対し、スーチー女史は、国内的にセンシティブな問題について積極的な発言を控えた。ここに来て、米国とスーチー女史との間に多少の温度差が生じていると言える。
かつてのヒラリー国務長官の電撃ミャンマー訪問によって、ミャンマーの民主化の道筋を確定的なものにした米国民主党。この外交的な成果を、北朝鮮の民主化の扉をこじ開けるための好事例と位置付けている。オバマ民主党政権としても、民主人権外交の成果としてのミャンマーの民主化を象徴的にアピールし、国際的に発信力のあるスーチー女史との蜜月関係を演出・維持することは、中間選挙で敗北して政権基盤がぜい弱化している状態下において、そのメリットは小さくない。米国として、ミャンマーの民主化の後退はもはや許されるものではないが、そのプロセスとスピードについての考え方は、スーチー女史との間に差が生じてきている。
米国は、民主化の実現のために、理念的な民主主義の理想に基づき、過度なスピードと厳格なプロセスを、今のミャンマーに強制することは、危険であると理解している。この点、スーチー女史は、理念的に過ぎる考えを持っているように、私は感じる。
以上見てきた通り、米国とNLDとの間に多少の温度差は生じてきてはいるものの、基本的には協働路線であることには変わりはない。現与党USDPが選挙を実施しない、または不公正な手続きで選挙を実施するようなことになれば、米国は黙っていないだろう。USDPは、公正に選挙を実施し、自らの行ってきた民主化の成果を誠実に国民に問うことが、最もUSDPにとって利益があると、私は確信している。選挙制度や選挙の手続きにおいて、不公正な対応をすることは、米国や国際社会の介入を招き、必ず自ら墓穴を掘る結果になるだろう。
次回のコラムでは、ポスト2015年を展望してみたい。
宍戸 徳雄
Norio Shishido