文字サイズ
2015.02.23
宍戸 徳雄
2015年の年頭、ミャンマーの選挙管理委員会は、2015年10月下旬から11月上旬に総選挙を行うことを発表した。5年前の総選挙(2010年11月)では、アウンサンスーチー女史率いるNLDは、選挙をボイコットした経緯がある。結果として、現政権与党であるUSDPが圧勝したわけであるが、今年の総選挙に、NLDは参加するのであろうか、世界中が注目している。
そのような中、2014年12月30日、アウンサンスーチー女史は、記者会見で、公正公平な選挙の実施を求め、今回の選挙がどのようなルールにおいて実施されるかが決まるまでは、選挙に参加するかどうか判断できないと語り、選挙への不参加の可能性を示唆している。
ここで争点となっている選挙におけるルールとは、昨年連邦議会の特別委員会が発案した8種類の選挙制度の内、現在の小選挙区制に加えた比例代表制並列制についてである。
私の見立てでは、比例代表並列制は、NLDや少数民族政党にとってもメリットのある制度であると考えるが、NLDや少数民族政党は、比例代表並列制は、USDPのみを利するだけの制度であるとして導入に反対の立場を表明している。確かに、USDPにとってもメリットもあるが、制度のメリットデメリットは各政党が共通して享受する性質のものであり、これだけを理由に選挙に不参加という姿勢は、政党として身勝手すぎるように感じる。憲法が規定する複数政党制に基づく公正な選挙の実効性を高めるためにも、現在、政党法上認められている政党は、国民の選択肢として、きちんと選挙に参加すべきである。NLDの論理で言えば、NLDが参加しない選挙は、選挙の公正さに欠けると言うが、それでは国民政党としての責任を果たす政党とは言えないだろう。現制度下で、可能な限り議席を獲得し、議会の構成を変え、一歩一歩着実に制度改革を成していくべきだと考える。もっとも、議会の4分の1が軍人の固定席との制度的な批判もあるが、それも含めて、憲法改正並びに選挙制度改革を現実的に進めていくべきである。議会制民主主義において、選挙のボイコットは、政党のわがままであって、国民への責任を放棄していると評価されることになろう。
また、選挙前の憲法改正がなされなければ、公正な選挙とならないという理由で、選挙に参加しないとするのも、憲法改正を働きかけるための交渉のカードとしては、すでに時間切れとなっている。もう2015年の総選挙は目前である。憲法改正は、現憲法下での選挙の下、新しい議会の構成員に働きかけて実現すべき段階にあると思う。NLDが集めた500万人の憲法改正の署名は、確かに国民の意思の一部であるが、その意思を無駄にしないためにも、現憲法下での選挙に参加し、選挙に勝って憲法改正を成し遂げるべきである。
2015年総選挙は、実施されないとの一部の悲観的な見方もあるが、おそらく現政権は、選挙を実施するであろう。その上で、NLDが選挙に参加しない可能性は否定できない。当然、NLDが選挙に参加することが期待されるが、NLDの圧勝か、又は、勝ち方の程度によっては、NLDとUSDPとの連立政権が発足する可能性も高い。現在、一番大統領へ近いところにいると言われているトラシュエマン下院議長が、アウンサンスーチー女史と組む可能性は十分にある。アウンサンスーチー女史は、現憲法下では大統領の就任要件に欠ける。彼女の最終的な目的は、ミャンマーに、人権保障と自由、そして民主主義を実現することであり、彼女自身が大統領に就任することではないはずである。連立政権下で、国民意思を問い、軍に特権を認めている現憲法を改正する必要があると判断されれば、憲法改正を実現すべきである。
テインセイン大統領が進めてきた民政移管後のミャンマーの改革を更に進めるためにも、選挙のボイコットなどで国政を混乱させることなく、NLDが選挙に参加することを期待したい。アメリカを含めた国際社会は、もはやNLDの選挙不参加を支持しないであろう。ミャンマーにおいて一定の民主化の成果が出てきていることは国際社会の共通認識である。ミャンマーの民主改革は段階的に進められるべきものであることは、国際社会の現実的な見方として大勢を占めているのである。もはやNLPの理想主義的な選挙のボイコットは支持されないであろう。
宍戸 徳雄
Norio Shishido