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2015.11.02
宍戸 徳雄
ミャンマーは仏教国として有名である。日本人は映画「ビルマの竪琴」の仏僧をイメージする人も多いだろう。
ミャンマーの仏教は、日本の大乗仏教と異なり、非常に厳しい戒律の遵守を重んじる上座仏教である。タイやラオス、カンボジアなども上座仏教の国である。ミャンマー国民の約90%が仏教徒で、世界最大数の出家僧を擁する。出家をして寺院に入り、毎朝托鉢に回り功徳を積む。歴史的に、寺院を中心とした地域コミュニティが、ミャンマーにおける社会生活の重要な相互扶助の基盤となっている。地域の信者は、托鉢僧に対し、食べ物を入れて功徳を積む。一般的に、男の子は10歳になるまでに一度出家して見習僧として寺院に入り、成人してもう一度出家するのが通例。日本の大乗仏教と異なり、一度出家しても世俗に戻ることができる。ミャンマーでは、在家信者も含め、5つの戒律を遵守している(人を殺さない、ものを盗まない、人を騙さない、性的にふしだらにならない、飲酒にふしだらにならない)。出家中は、正午以降の食事は禁じられている。
地域に存在する仏塔(パゴダ)は、ミャンマーの仏教徒にとって重要な信仰の場である。休日ともなると、家族でパゴダに集い、熱心に祈りを捧げる様子が見られる。ミャンマー最大のパゴダであるヤンゴン中心部のシュエダゴンパゴダは、ヤンゴン市内で最も人が集まる信仰の場となっている。
その黄金の輝きと荘厳さは、訪れる人を圧倒させるパワースポットだ。パゴダでは、ミャンマーの8つの曜日の暦に従って、拝礼する場所が決まっている。ここを訪れる際には、自分の誕生日の曜日を調べてから行くのがよい(ミャンマーのスマートフォンには曜日検索のアプリもある)。土足での拝観は許されていない。
ミャンマー北部には、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールと並び世界三大仏教遺跡の一つと称されているバガン遺跡がある。かつてのバガン王朝の都があった場所だ。大小2834もの数の仏塔が立ち並び、夕暮れ時にもなるとその美しい風景は、観る人を虜にする。
これらの仏塔は、王族や一般市民からの寄進によって建てられたと言う。ミャンマー人仏教徒の敬虔さをうかがい知ることができる。
このようにミャンマーの歴史、文化、社会に深く根差した仏教であるが、ミャンマーではマジョリティである仏教徒と、マイノリティであるイスラム教徒との間の対立、紛争が社会問題となっている。ミャンマーでは市民権が認められていないムスリムのロヒンギャ族が迫害を受け、難民としてタイやマレーシア、インドネシアへと漂流して国際問題となったことは記憶に新しい。ミャンマーにいる過激派仏教徒は、時に、あからさまな対立を煽る。イスラム教徒の製造した商品の不買運動を呼びかけたり、仏教徒とイスラム教徒との婚姻を禁止する法案の提出や署名活動を行ったりと、その過激な行動から、ある過激派の高僧は、アメリカのタイム誌において「仏教徒テロ」と評された(同誌はミャンマーでは発禁処分となった)。民主化後のミャンマーにおいても、北部、中部の街で、仏教徒がイスラム教徒を襲うという暴動が度々発生している。軍や警察が出動し鎮圧しているが、暴動による死傷者を数多く出ている。ミャンマーにおける宗教対立は、少数民族問題とも絡み、統治上の不安定要素として、複雑な社会問題となっている。
宍戸 徳雄
Norio Shishido