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2015.12.21
宍戸 徳雄
1万人以上の海外からの監視団を受入れ実施されたミャンマーの総選挙。選挙結果の確定値は、改選議席491議席の内、アウンサンスーチー議長率いるNLD(国民民主連盟)が過半数を獲得し390議席、現与党であるUSDPが42議席、その他の地方政党や民族政党などが59議席という結果に終った。軍人の固定席である議会の4分の1の議席である166議席を考慮しても、NLDが議会で単独で過半数を獲得した結果となった。
選挙結果の確定を受け、アウンサンスーチーNLD議長は、テインセイン大統領、ミンアウンライン国軍司令官、トラシュエマン下院議長と相次いで会談。平和裏に政権移管を行うよう協力を要請。一部で、軍の抵抗や非協力姿勢が心配されたが、大統領、軍含め、円滑な政権移行を約束した。
今後、憲法の規定に従い、2016年2月6日までに議会が招集され、その後の議会において大統領の指名選挙が行われる。大統領の選出は2月中に行われ、3月中に、新大統領の就任と新政権が発足する見込みだ。
平和裏かつ円滑な政権移行への合意を、現政府、軍、議会の長から取り付けたアウンサンスーチー議長は、在ミャンマー駐在の各国大使を招集し、円滑な政権移行の手続きへの外国政府の協力も求めた。NLD政権の誕生を受け、従来NLDとのパイプがそれほど強固ではなかった日本政府は、NLDに対し早期のアウンサンスーチー議長の来日を要請。第一弾として、2015年11月末にはNLD中央執行委員会の経済委員で弁護士でもあるNLDの幹部の来日を実現させ関係強化を急いでいる。
NLDが、着々と政権移行への準備を進める中、2015年12月4日、驚くべきニュースが世界のメディアを駆け巡った。かつて、アウンサンスーチー議長を、延べ15年間(3回)に亘り、自宅軟禁して拘束し、彼女の民主化運動に対し徹底的な弾圧を繰り返してきた旧軍政のトップであったタンシュエ議長が、トラシュエマン下院議長の仲介により、アウンサンスーチー議長との面談を実現させたのだ。タンシュエ議長は、NLDの選挙の勝利と、アウンサンスーチー議長のこれまでの活動を評価し、これからの国家の指導者として認め、国民が望んでいる形の民主化の実現に賛成している旨を伝え、NLD政権誕生に協力する姿勢を示したとされる。これは、民政移管後も院政のような形で絶大なる影響力を行使し続けてきた旧軍部のトップと、アウンサンスーチー議長の「歴史的な和解」と、後世において評価されるであろう。もともと民政移管の判断をしたのは、旧軍政トップのタンシュエ議長であり、その後の民政移管後の改革を推し進めてきたのはテインセイン現大統領だ。この流れの中で、今回の総選挙において示された国民意思を尊重し、政府、軍は、民主化勢力との正式な和解を試み、アウンサンスーチー議長もこれに応え、国の為にならないような恨みに基づいた報復措置などは行わないことを約束したという。まさに、ミャンマーの民主化への土台が固まった瞬間だ。今後は、国民の意思を実現するために、NLD新政府、軍が協力関係を構築して、ミャンマーの民主化を更に推し進めていくことになる。
このミャンマーの民主化の過程は、多くの血が流れた時代もあったが、その長く困難な時代を経て、最終局面においては、緩やかな民政移管で地ならしをした後、無血で権力移管を実現したと、賞賛されるべきであろう。民政移管から今回の総選挙を混乱なく公正に実施し、国民意思の実現に貢献したテインセイン現大統領こそ、アウンサンスーチー議長と並び、ノーベル平和賞候補者として適格なのではないかとも思う。この歴史的な和解に最大の敬意を表したい。
宍戸 徳雄
Norio Shishido