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2016.02.01
宍戸 徳雄
2016年2月1日には、昨年の総選挙の結果を受けて新しい議会が招集される。軍の旧トップとの歴史的な和解を果たしたNLDのアウンサンスーチー党首は、ミャンマー連邦議会、軍、現与党USDPとも連携しながら、着実に政権移行の準備を進めている。
NLDへの政権交代後の投資環境の変化を見極めようと、外国企業は積極的な動きを見せている。
特に顕著な動きを見せているのが、米系企業だ。総選挙の結果が確定してすぐに、米国政府は成功裏に終わったミャンマーの選挙結果に対し賛辞を送り、昨年実施していたSDNリスト企業に対する経済制裁発動の部分解除など、ミャンマーに対する制裁緩和姿勢を示した。米国政府のミャンマーに対する支援スタンスが明確になりつつある中、マイクロソフト社など米系企業のミャンマーへの進出のビジネススキームが次々と発表され、政権移行を待たずに、ミャンマーへの投資がスピードアップしそうな機運が高まっている。
元々、ミャンマーへの投資環境上のネックは、欧米による経済制裁であった。現テインセイン政権が民政移管して後、およそ9割以上の欧米による経済制裁は解除されてきたものの、それでもミャンマーの主要企業との資本提携を含めたアライアンスにおいて実質的な高いハードルが残っていた。
ミャンマーの産業構造上、旧軍政時代からミャンマー経済の中心的役割を担ってきた政商(クローニー)は、何らかの形で制裁対象の網にかかっていたからである。ミャンマー外国投資法上の投資規制上、特定の業種規制の一環として、外国企業はミャンマー企業との合弁条件が付くことが多い。外国企業が合弁事業としてミャンマーへの投資をしようにも、合弁相手となるミャンマー企業が制裁対象であれば、合弁事業を立ち上げれば、自らも制裁対象企業となってしまうため、投資を躊躇せざるを得ない。制裁対象企業となってしまうと、特に、対外的な米ドル決済ができなくなり、海外事業を国際的に展開する企業としては致命傷を負うことになる。
そのような中、先般の選挙結果を受けて、米国政府による段階的な制裁緩和姿勢が明確になってきており、近い将来における制裁の全面解除への期待が高まっている。実際的には、過去、北朝鮮などとの武器取引や麻薬取引に関わったミャンマー企業などに対する制裁は解除されないであろうが、その他の企業については制裁が徐々に解除されていくことが見込まれる。
日本勢は、上記のような米国政府の動きや米系企業の動きに連動して、ミャンマーへの本格的な投資へのステップを踏み始めている。日本企業は、民政移管後のミャンマーにいち早く注目し、NATO(Not Action Talk Only)などと揶揄されながらも、進出のための事業調査などを水面下で進めてきた。産業インフラや法制度が未整備で、欧米の経済制裁も完全解除されない中、投資に慎重であった日本企業もいよいよ本格的に投資を検討し始めている。NLDへの政権移行を見極めながらも、日本からの投資が加速することは間違いないだろう。さらに、会社法等の事業再編に関わる法制度も改正作業中で、今後、外国人に対する株式の譲渡などが合法的かつ弾力的に行えるようになった場合、ミャンマーにおける有力民間企業と外国企業とのアライアンスを含めた様々な投資形態が実現することになるだろう。日系企業は、これまで、ODA事業と関連し、ミャンマー政府やその関係企業とのインフラ開発などを中心に事業活動を行ってきた。日本勢は、通信分野、金融分野(証券市場開設など)、経済特区開発、交通分野などで先行している。今後は、政府関連事業のみならず、民間同士の事業アライアンスも活発になることが期待されている。
以上のように、総じて、ミャンマーへの投資環境は、総選挙の結果を受けて、改善の方向に向かっている。ミャンマーの投資局(DICA)は、今後数年で外国投資による30万件以上の雇用創出を見積もっているという。米国の支援スタンスの明確化など、投資環境改善の好材料は揃っては来たものの、引き続き、電力、通信、水道、道路、港湾などの産業インフラの構築は進めていかなければならない(ハード分野)。産業インフラ分野も、民政移管当初よりは改善してきているが、依然として、他のASEAN諸国対比、電力を中心とした脆弱な産業インフラの未整備は、投資環境上のハードルとなっている。また、法制度整備や人材育成などのソフト分野における改善もスピードアップしていく必要がある。
政治の安定を基盤として、ハードとソフトの両輪を同時にしっかりと整備していくことが、NLD政権下においても必要不可欠であろう。
宍戸 徳雄
Norio Shishido